ローマの休日

1997/06/21 シネマ・カリテ3
監督の演出が大味で、脚本の洒落たセンスがまったく生きてない。
ヘプバーンの魅力だけで古典化した映画です。by K. Hattori



 恥ずかしながら今回観たのが初めてなんですが、正直言って「な〜んだこの程度なのか」と思いもした映画。アメリカ人向けのローマ観光案内としてはよくできてると思いますが、お芝居の方がまるで駄目ですね。そもそも上映時間が長い。この程度の内容なら、1時間半ぐらいでまとめなきゃ。序盤のパーティー場面から、王女がヒステリーを起こしたあげく大使館を抜け出すまでがモタついてます。ここはもっとコンパクトにまとまるはず。新聞記者に出会って一晩を彼の部屋で過ごすはめになるくだりも、もっとテンポよくエピソードを重ねてくれないと観客がいろんなことを考えてしまう。タクシーの運転手との会話などはもっと面白くなるはずなのに、映画の仕上がりはあまりにも平凡。

 お話自体は面白いのに、それを芝居でふくらませている部分がほとんどない。ほとんど全部が、言葉で説明されているから、展開がかったるくなるのだ。芝居の間合いやリズムで押し切り、その分切ってしまえるエピソードは多いはず。例えば警察に捕まって、二人は新婚旅行の夫婦ですと説明する場面。パントマイムで状況を説明する主人公たちの姿に結婚行進曲をかぶせる場面がありますが、ここはもっと強く音楽を押し出すことで、警察から出てきたときのセリフが幾つか削れるはず。後から追いかけてきた人たちが、主人公たちに祝福のキスをする場面も、それでもっと生きてくるはずです。

 最後の船上ダンスパーティ以降の展開も、ちょっとテンポが悪い。テンポが悪いから、観客は余計なことをいろいろと考えてしまう。最後に別れる場面で雨が降ってくる場面も、その前に台詞でちゃんと複線があるのに、まったく生きてないんだよね。作っている本人が、そんなこと忘れてしまったかのようなあっけなさです。最後の記者会見の場面も、もう少しスピードアップした方がよかったと思うけどな。編集のタイミングで時間の経過を演出することができるはずなのに、この映画はほとんどそうしたテクニックを使わない。10分の場面は10分かけて撮っている感じです。これは最後の場面だけでなく、全体に言えることですけどね。

 この映画の脚本はアカデミー賞を取ってます。話の展開も人物配置も台詞も、よく考えられているいいシナリオだと思います。もっと腕のいい監督がこの脚本を映画化していれば、この映画は今の3倍は面白い映画に仕上がっていたことでしょう。それが残念でならない。

 結局この映画の財産は、オードリー・ヘプバーンの初々しい魅力以外にはない。それだけで、人々の記憶に残る映画だと思います。美容院で髪を切る場面、アイスクリームを食べる場面、川に飛び込んで濡れ鼠になった時の表情など、映画の中で印象的な場面のほとんどは、ヘプバーンが登場している部分。24時間のローマの休日を経て、王女は大人の女性へと成長する。でも新聞記者はどう変わったんでしょうね。彼の変貌ぶりが描かれていないところが、この映画最大の欠点でしょう。


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