輝きの大地

1997/07/09 シネセゾン試写室
ブロードウェイでミュージカルにもなった有名な小説の映画化作品。
原作の邦訳を探してみようという気になった。by K. Hattori



 1948年に出版され、世界中でベストセラーとなったアラン・ペイトンの小説「叫べ、愛する国よ(Cry, The Beloved Country)」の再映画化。主演はジェームズ・アール・ジョーンズとリチャード・ハリス。アパルトヘイト(人種隔離政策)開始直前の南アフリカを舞台に、白人の農場主と黒人牧師の確執と友情を描いた物語だ。監督は反アパルトヘイト・ミュージカル映画『サラフィナ』を撮ったこともある、南アフリカ出身のダレル・ジェームズ・ルート。『サラフィナ』は反アパルトヘイトというテーマが高らかに歌い上げられたミュージカル映画だったが、映画が完成する前年南アフリカがアパルトヘイトを停止。映画の中でも待望されていた「ネルソン・マンデラの釈放」が実現してしまったため、映画の政治的なメッセージが宙に浮いてしまったという、タイミング的には不遇な作品だった。

 『輝きの大地』は、今から50年以上前、1946年の南アフリカを舞台にしている。南アフリカの人種差別政策が霧散してしまった今、こうしたドラマを作るのはやはり『サラフィナ』と同じで時期外れなことなんじゃないだろうかと心配していたのですが、そんなことは映画の製作者たちがとっくに考えていることなのでした。原作小説は1951年にシドニー・ポワチエ等が出演して最初の映画化がなされているのですが、こちらは多分に政治的メッセージが濃厚な作品だったらしい。今回の映画に関して監督のルートは「怒りよりも祈り、憎悪よりも癒しだ」と語っているそうです。じつはこうした点こそ、政策としてのアパルトヘイトがなくなった南アフリカにもっとも必要なメッセージなのかもしれません。

 この映画で描かれているのは、個人の中にある差別や憎悪を、どうやって乗り越えて行くかという、人間にとって普遍的なテーマです。差別や憎悪は南アに限らず、世界中どこにでもあるもの。この映画の主人公たちの気高さが胸を打つのは、そこに政治的な打算や駆け引きが存在せず、純粋に「人間としてのありかた」だけが提示されているからでしょう。

 ジェームズ・アール・ジョーンズが演じるクマロ牧師は、都会に出たまま帰ってこない息子が、白人を射殺した容疑で逮捕されたことにショックを受ける。射殺された白人は、黒人への差別が根強い南アフリカの中で、黒人の地位向上のために働く人物だった。殺された男の父親リチャード・ハリスは、殺された息子の足跡をたどることで、自分の中にある黒人に対する偏見や差別を克服して行く。加害者の父と、被害者の父が、偶然邂逅する場面の緊張感と、その後に訪れる感動。ここには周到な芝居の段取りも、お金をかけた特撮も存在しない。むき出しの二人の人間が心と心を通わせる瞬間を、俳優の演技力だけで紡ぎ出す瞬間はスリリングです。

 音楽はジョン・バリーですが、どうせならエンディングに、同じ原作をミュージカルにしたクルト・ワイルの「Lost in the Stars」を使ってほしかった。


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