OL忠臣蔵

1997/07/28 松竹第2試写室
M&Aで解体されそうになる会社を救うためOLたちが立ち上がる。
坂井真紀の魅力が映画の評価にかなり貢献。by K. Hattori



 企業買収で会社を乗っ取られ、職場を奪われそうになったOLたちが、会社を理不尽な投資家たちの手から取り戻す物語。タイトルが『忠臣蔵』になっているが、OLが四十七人集まるわけではないし、投資家の家に深夜討ち入りをかけるわけでもない。そもそも彼女たちに人並みはずれた会社に対する忠誠心があるわけでもないし、義理人情から復讐を決意するわけではない。ここで描かれているのは、日頃「女の子だから」「女のくせに」と馬鹿にされ、男中心の会社社会から排斥されてきた女子社員たちが見せる女の意地である。

 「会社を影で動かしているのはOLたちでした」「OLを馬鹿にすると後で恐いよ」というメッセージは時流におもねったものだと思うし、アイデアとしては安直な気がします。でも、これが素晴らしく面白いんだから参ってしまう。細部に「そんな馬鹿な」という部分もなくはないのですが、そこを登場人物たちの魅力でなんとか乗り切って、ラストまで漕ぎ着けるエネルギー。確かにこの映画に傷はある。全身大小の傷だらけです。でもその血だらけの姿は均斉が取れていて、十分に美しいのです。傷はなくても萎縮したりイビツにひん曲がった映画が多い中、向こう傷を恐れずにこれだけの映画を作った人たちに拍手を贈りたい。すごく面白い映画でした。

 物語のアイデアとして、M&Aを中心に据えたのは面白い。業界大手の通販会社がアメリカのM&A企業に手玉に取られ、あっという間に屋台骨ががたがたになってしまう様子。株価操作の手口や買い占めの段取りなど、とてもわかりやすく描写されていた。クライマックスに登場する株主総会の様子など、あまり今までの日本映画では見かけることのない場面です。僕はこの映画を観てはじめて「あ、総会屋ってああいうことをする人たちなのね」と合点が行きました。

 登場人物の造形にはばらつきがあって、ものすごく上手にふっくらと仕上がっている人物がいる反面、薄っぺらなステレオタイプの描写で終わっている人たちもいる。うまく行っているのは、坂井真紀演ずる主人公・佐倉ふぶき、中島ひろ子扮する財テクOL・花祭鯛子、井出薫が演じたロッカーに備品をため込む井戸端美和、そして南果歩が憎々しげに演じたM&A企業のマネージャー朝吹季里子など。中でも南果歩の芝居は絶品です。僕は昔からこの人の硬質な存在感と大げさな芝居がうっとうしくてしょうがなかったんですが、今回はそのキャラクターが悪役にぴたりとはまっていい味出してます。

 逆に残念だったのは、創業社長以下、M&A騒動の中心にいる役員連中の人物像が薄っぺらだったこと。この騒動の一番の責任者はある意味では社長なのに、そこに何の説明も釈明もなかった。これは脚本にあと数行の台詞があれば解決すると思う。OLたちの中でキーマンになるヤンママ社員・香車銀子役は、吉野公佳にはちょっと荷が重かったかも。台詞にはもっと迫力が欲しいし、そもそももっと大型のバイクに乗っていてほしかった。


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