GO NOW

1997/07/31 シネセゾン試写室
難病物のパターンに落ちていないところが、観客の静かな感動を生む。
『日陰のふたり』のマイケル・ウィンターボトム監督作。by K. Hattori



 『トレインスポッティング』で狂暴なアル中の男ベグビーを演じていた、ロバート・カーライル主演の恋愛映画。ジャンルとしては「難病物」になるのだろうか。多発性硬化症(MS)という難病に冒された男が、恋人とふたりで人生を歩んで行く様子がていねいに描写されている。新人脚本家ポール・ヘンリー・パウエルが、自身の体験をもとに書いた脚本を、『司祭』のジミー・マクガヴァンが映画的にふくらませ、『日陰のふたり』が日本でも公開されたばかりのマイケル・ウィンターボトムが監督している。ちなみに主演のロバート・カーライルは、『司祭』に主人公の恋人役として出演してました。役の振幅がすごく大きな人ですね。

 監督のマイケル・ウィンターボトムは、95年に『バタフライ・キス』という映画でデビューした新人監督。1961年生まれですから、まだ30代です。日本では『日陰のふたり』で紹介された監督ですが、今回の『GO NOW』に続き、来年にはデビュー作の『バタフライ・キス』も公開される予定。最新作の『Welcome To Sarajevo』や現在制作中の『I Want You』も日本公開が決まっているらしい。今後注目すべき、イギリスの若手監督だと思います。端正でオーソドックスな作りの『日陰のふたり』に比べると、この『GO NOW』はずっとポップな仕上がり。リズミカルに物語を進めて行くテンポなどは、ダニー・ボイルの『トレインスポッティング』にも通じると思います。『日陰のふたり』同様、登場人物の心情をたっぷりと芝居で見せるところもある。表現の引き出しが多そうなので、他の作品も早く観てみたい。

 『日陰のふたり』では主人公ジュードが石工として働いていましたが、『GO NOW』でも主人公が建設用の装飾美術を作る工房で働いていました。『GO NOW』と『日陰のふたり』は同じ年に作られた映画ですが、『GO NOW』の方が先に作られている。『日陰のふたり』の主人公が石工をしているのは原作通りだから、案外ウィンターボトムは『GO NOW』で予行演習をしたのかもしれません。

 脚本家の実体験をもとにしているせいか、エピソードやキャラクターがじつにリアルです。難病にかかったことで主人公の人生観が一変してしまったり、周囲の人が急に優しくなったりはしない。主人公は自分の病気を持て余し、戸惑い、自分が変わっていくことに苛立ちながら、それでも毎日を生きて行く。病気にかかる前と同じ生活をしようと努力しながら、どうしても変化して行かざるを得ない生活に歯ぎしりしている。主人公が普通の生活をしようとすればするほど、周囲の人たちがさりげなく振る舞おうとすればするほど、逆に関係がギクシャクしてしまうのは皮肉です。何気ない言葉や振る舞いが、病人の前ではなぜかとても場違いなものに見えてくる。

 主人公の恋人カレンを演じた、ジュリエット・オーブリーの存在感が、ロバート・カーライルの神経質な芝居をうまく受け止めて、物語に深みと厚みを出している。なかなか素敵な女優さんです。


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