座頭市物語

1997/08/10 銀座シネパトス2
天知茂扮する平手造酒と市の友情がラストシーンで無残に散る。
昭和37年製作の記念すべきシリーズ第1作。by K. Hattori



 勝新太郎のあたり役、座頭市の記念すべき第1作目。昭和37年製作の大映映画です。監督は名人三隅研次。この時点ではヒット作になると考えていなかったようで、映画はまだモノクロ。文庫本でも数ページしかない子母沢寛の短編をもとに、座頭市というキャラクターをここまでふくらませたのだからすごい。観ればすぐわかることだが、この役にかける勝新の意気込みは並々ならぬものがある。居合い抜きの名人である座頭市のキャラクターに説得力を持たせるため、おそらく何十回、何百回と稽古したに違いない殺陣はものすごい迫力です。映画で観ていても、市の振り回すつむじ風のような抜打ちの素早さにびっくり。スピード感を出すためにカットを割ったりしてごまかさないことからも、この殺陣に対する勝新の自信がうかがえます。

 『座頭市物語』で市と対決するのは、労咳を患うやくざの用心棒、平手造酒(みき)だ。平手は実在の人物で、映画にも描かれている笹川の繁蔵と飯岡助五郎の大利根河原の大喧嘩に、繁蔵方の用心棒として参加。全身に十数カ所の刀傷を受けて死んだという。墓も千葉にある。経歴は不明だが、もともとは江戸千葉道場の高弟で、酒色におぼれるなどの不品行から破門されたらしい。その後流れ流れて、笹川の宿にたどり着き、用心棒として糊口をしのいでいたようだ。平手は講談・浪曲の『天保水滸伝』のヒーローとして、戦前から庶民に知られた人物だった。『座頭市物語』以前にも、平手造酒を主人公にした映画が何本も作られている。

 もちろん『天保水滸伝』に座頭市は登場しないし、子母沢寛の原作に平手造酒は登場しない。座頭市と平手造酒を対決させたのは、映画のオリジナルだ。実話をもとにしたとはいえ、ほとんどがフィクションである『天保水滸伝』の世界に、フィクションである座頭市というキャラクターをはめ込むことで、物語は生々しい迫力を持ちはじめる。脚本の巧みさはもちろんだが、勝新太郎の役作りにかける努力と工夫、三隅監督のツボを心得た演出、美術スタッフの素晴らしい仕事ぶり、そして脇役たちの層の厚さが映画を奥深いものにしている。

 何よりこの映画を力強くしているのは、平手造酒を演じた天知茂の気迫のこもった熱演。胸を病んで先の短い命。用心棒生活で心がすさみ、自暴自棄になっている平手が出会う、盲目の剣士座頭市。互いに敵味方に分かれたものの、共に相手に敬意を払い、不思議な友情を育んで行く二人の男。平手は市の剣を一目で「生きるための剣」と見抜き、「俺はその逆だ」とつぶやき酒をあおる。共に剣に命を託した男同士の絆が、しっかりと結びついて行く名場面です。共に相手を尊敬しながら、それでも斬り合わねばならない渡世のさだめと男の意地。市に斬られた平手は、「どうせ死ぬならおぬしに斬られて死にたかった……」とつぶやき絶命する。涙をこらえながら、仕込みのドスを鞘に収める市。殺陣とドラマがぴたりと一致した、素晴らしい時代劇映画の傑作です。


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