ブレーキダウン

1997/09/10 東宝東和試写室
頭の先から尻尾の先までぎっしりアンコが詰まった映画。
物語と演出テンポがよくて少しもダレない。by K. Hattori



 カート・ラッセル主演のサスペンス・スリラー。自動車を使った大陸横断旅行のさなか、砂漠の真ん中で新車がエンコ。主人公はその場で車を見守り、同乗の妻は親切なトラックに便乗して次の町まで助けを呼びに行く。だが、それきり妻は帰ってこなかった……。なんとか車の故障を直した主人公は、待ち合わせ場所に指定してある食堂に行くが、そこに妻の姿はない。場所を間違えたかと車をさらに先に進めると、つい数十分前に妻を乗せたトラックを発見。だが、運転手は妻を乗せた覚えがないという。通りかかった警官を止めて車内を調べたが、どこにも妻の姿はない。彼女はどこに消えたのか……。場所は砂漠の中の一本道。忽然と消えた妻の行方を追って、主人公の孤独な追跡劇が始まる。

 人間が突然かき消えるというミステリーとして始まるが、途中からアクション映画になるのはお約束どおり。これはヒッチコック以来の伝統ですから、一向に構わない。ただしこの映画では、ネタを割ってしまうタイミングがちょっと早いような気がした。ミステリー路線で、全体の3分の2ぐらいまでは引っ張れたと思うし、そこまでの過程で、もっと観客にいろいろなことを考えさせてほしかった。例えば、待ち合わせ場所のダイナーが怪しいのではないかとか、警官もグルなのではないかとか、妻は本当に逃げ出してしまったのではないかとか……。映画の中でもそれらの可能性について少しずつ示唆はしているのですが、それがミステリー色を深めさせるまでには至っていない。短い時間で緊張感が限界まで達していれば、そこから観客を開放する意味でも一度ネタを割って、物語を別の方向に向けても悪くない。でも、この映画はまだそこまで達していなかったから、前半の印象が中途半端になってしまった。

 事態の全貌がほぼわかってから、犯人たちが主人公を追いつめて行く様子はなかなか手が込んでいるし、面白く観られた。追いつめられた主人公が反撃に転じ、攻守ところをかえて主人公が犯人たちに迫って行く部分から、映画は正統派のサスペンス・アクション映画になってゆく。これはこれでとても面白いんですが、序盤のミステリーが魅力的だっただけに、ずいぶんと「普通になってしまったなぁ」という感じはした。ま、普通の映画を普通に撮るのは結構難しいので、そういう意味ではこの映画の脚本・監督を担当したジョナサン・モストゥは力のある人なのでしょう。これがデビュー2作目だそうです。

 完全無敵のヒーロー役が多いカートラ・ラッセルの映画の中では、日常生活との連続性という点で『不法侵入』に近い作品だと思う。『不法侵入』はマデリーン・ストウの映画だったけど、今度はラッセルが大活躍してます。親切なトラック運転主役のJ・T・ウォルシュも、善良そうな人物の裏側にある邪悪さをうまく出してます。行方不明になる妻を演じたキャサリンクインランは、今回最初と最後に少し出てくるだけなので、ほとんど印象に残りませんでした。


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