バッド・デイズ

1997/09/26 アオイスタジオ試写室
ハーベイ・カイテルとスティーブン・ドーフが出演するギャング映画。
内容はアメリカ版『いつかギラギラする日』。by K. Hattori



 1955年に製作されたジャン・ピエール・メルビルのギャング映画『賭博師ボブ』のアメリカ版リメイクだというが、内容はどう見ても深作欣二監督作『いつかギラギラする日』なのはどういうわけ? 中年ギャング団の強盗に一枚かんだ若いチンピラが、仲間を裏切って獲物を持ったまま逃走。からくも生き延びたひとりの中年ギャングが若者を追って、最後は仲間の復讐をとげる物語だ。『いつかギラギラする日』の萩原健一と木村一八の対決が、この映画ではハーベイ・カイテルとスティーブン・ドーフの対決に置き換えられている。

 反抗的で野心的な若いギャングが裏切る理由は台詞などで明確に描かれているわけではないが、それまでの彼の態度やギクシャクしたムードから、彼の突然の裏切りも不自然な感じはしない。思いがけず奪った金が少なかったことから、若者が強奪金の一人占めを狙った『いつかギラギラする日』の方が説明としては「合理的」に思えるのだが、「合理的」であることが必ずしも映画表現として優れているわけではないという証明だろう。

 ひとり生き残ったハーベイ・カイテルが、殺された仲間のギャングの女房にかくまわれ、手渡された秘密のノートから裏切った若いギャングを追いつめて行く後半は、もう少し踏み込みが浅いような気がする。ハーベイ・カイテルと仲間の女房ファムケ・ヤンセンの関係が、「ギャングと仲間の女房」という関係から「男と女」の関係になりそうでならないもどかしさ。一線を越えないなら越えないままでもかまわないが、ふたりの気持ちの結びつきが「男と女」になってゆく様子が見えないので、カイテルがヤンセンを命懸けで助ける理由が弱くなる。ふたりの関係を『沓掛時次郎』ふうに追いつめて行けば、この映画の後半はグッと盛り上がったと思うのだが……。

 裏切り者の若いギャング、スキップを演じたスティーブン・ドーフは、『ブラッド&ワイン』でジャック・ニコルソンと対決した若手俳優。大物俳優とからんでもまったく物怖じしない態度と芝居は大器の予感。映画の画面を支配する存在感で、しばしばベテランのハーベイ・カイテルを食ってしまうところも見える。やんちゃ坊主のような役が似合う人ですが、こうして完全な悪役を演じても嫌味のない俳優です。まだちょっとマイナーな匂いのする俳優なので、今後はメジャー作品に出て役柄の幅を広げてほしい。将来が楽しみな役者です。

 ハーベイ・カイテルの役には、もう少しスピード感がほしかった。スキップの裏切りと警察の追尾から脱出し、殺し屋たちの襲撃から逃れながら、一転して反撃に向かう切り返し。追われる者から追う者への変身を、映画のテンポの違いとして描いてくれると、もっと面白かったかもしれない。ま、無い物ねだりですけどね……。

 監督は『戦争の犬たち』『ゴリラ』『ハンバーガー・ヒル』のベテラン、ジョン・アービン。入り乱れる登場人物を巧みに処理して、よどみのないストーリー展開。でもあともう一息、もうひと押しがほしかった。


ホームページ
ホームページへ