狼たちの復讐

1997/09/29 KSS試写室
物語のアイデアは面白いのだが話に粗雑なところがあり興をそぐ。
初主演の鬼塚勝也は将来が楽しみな逸材。by K. Hattori



 元WBC世界ジュニアバンタム級チャンピオン・鬼塚勝也の映画デビュー作。やくざ稼業に嫌気がさし、足を洗おうとした若者3人が、非情な組織の罠にはめられて抹殺される物語です。主人公を演じる鬼塚の肉体が持つ存在感は素晴らしく、どんな芝居も有無を言わさぬ迫力で押し通してしまう。これは役者としての才能云々ではなく、タレントとしての天分でしょう。残念なのは、それを盛り立てる周囲のエピソードやキャスティングがやや力不足なこと。もう少し周辺人物に厚みがあると、主役の魅力も底上げされて、映画としても格が上がったと思う。鬼塚には大型新人としての魅力があるのだが、それを売り出すシステムが日本の映画界からは失われているんだな……。これがハリウッドなら、ベテランや中堅の俳優で周囲をびっしり埋めて、主役を徹底して前に押し出して行こうとするんだろうけど。

 足を洗いたいと言う若い組員に組長が命じた最後の仕事は、世の中をなめきっている組長のどら息子を誘拐し、組長に対して身代金を要求すること。この偽装誘拐を父親が解決することで、息子は父親に対する愛情と尊敬を新たにするだろうという筋書き。まんまとこの話に乗った3人だったが、組長はこの先の筋書きまで考えていた。それは組に刃向かった者を始末することで自分の力を誇示し、裏切り者の粛清を通して組織内部を引き締めることだ。3人は組長の手の上で踊る将棋の駒。自分たちの行く末も気付かぬまま、事件の経過や自分たちの隠れ家をいちいち組長に報告してくるのだから、組長としてはすべてのお膳立てがととのっているはずだった。ところが思いがけない事態から、3人は組長の思惑を離れて行動し始める。組長の息子を拉致する過程で、息子のガールフレンドを殺してしまったのだ。

 物語の筋立ては面白いと思うのだが、脇道のエピソードや描写がステレオタイプで、映画全体を安っぽくしてしまった。主人公と孤児院のエピソードはアナクロすぎるし、牧師や保母の人物像も薄っぺらだ。主人公たちと対決する殺し屋も、最初から最後まで「我こそは凄腕の殺し屋でござい」という風体なのが興をそぐ。殺し屋が無口なのはいいとしても、あのスタイルと態度はなんとかならないんだろうか。超一流のプロのわりには、行動が粗雑で間抜け。主人公たちの行方を探るために、無関係な人々を殺すようではプロと言えない。拳銃が使えるのなら青龍刀は必要なかろうに……。

 目撃者が何人いようとブルドーザーのように標的に接近する殺し屋像は、ジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』が生み出したものだと思う。でもこれは、自分の身を捨ててでも目的を達することが必要な場合にのみ有効なことで、報酬目当ての殺し屋には似つかわしくない行動だ。最近では『ザ・ターゲット』にも似たような殺し屋が出てきたけど、殺し屋は人間で不死身のサイボーグじゃないんだから、行動の裏付けや根拠が欲しいんだよね。そんなことがすごく気になった映画です。


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