阿片戦争

1997/10/02 徳間ホール(試写会)
香港割譲のきっかけとなった阿片戦争の全貌を描く大作映画。
登場人物やエピソードを整理する手腕に舌を巻く。by K. Hattori



 今年7月、中国に返還された香港だが、そもそも香港がイギリスに割譲・租借されたきっかけとなったのは、1840年に始まる阿片戦争である。1830年代末、イギリスから中国に不法に持ち込まれるアヘンによって、当時の中国は毎年国家財政の4分の3相当にあたる膨大な量の銀が国外に流出し、国家の財政は破産寸前の危機的な状況にあった。当時アヘンの売買はイギリスでも中国でも違法だったのだが、イギリスの商船はなかば大っぴらに、大量のアヘンを中国に持ち込んでいたのだ。これに業を煮やした道光皇帝は、アヘンの取り締まりを徹底させたが、これに反発したイギリスの商人を保護し、自由貿易を守るという名目でイギリスが軍事介入を決定したのが1840年。その後、中国側も武力抵抗したものの、近代兵器の攻勢の前にはかなく敗れ、1842年香港を割譲する条約を飲んだ。

 映画は戦争直前の1839年から始まり、戦争に直接間接に関わった人々のドラマを織り込みながら、香港割譲の1842年までを描く。登場人物は中国(清)の皇帝からイギリスのビクトリア女王、中国の役人や政治家からイギリスの国会議員、中国のアヘン商人やイギリスの商人、それぞれの子女、芸妓、兵士まで多岐に渡るが、エピソードがすっきりと整理されていて、ほとんど混乱することがない。2時間半の映画の中に、これだけの内容をたっぷりと詰め込んで、しかも所々に余録さえ見せる脚本の構成力と演出力は見事。徹底した時代考証を行なったであろう壮大なセットや、豪華な衣装、美術などがシネマスコープの大画面に映し出されると、壮大な時代のうねりが画面から伝わってくるようだ。

 ドラマの部分を細かく検証すれば、中国人商人の息子・何善之と、イギリス商人の娘マリーの関係が不明確だし、何善之と相思相愛の芸妓・蓉兒を交えた三角関係がぼやけてしまっている。中国人でありながらイギリス商船に命を救われ、キリスト教の教えに感化されている何善之を時代の目撃者にすえ、巨大な時代のうねりを第三者の眼で見つめさせようという目的があったのかもしれないが、途中で物語のレールから何善之が脱落してしまうのは残念。蓉兒に至っては、恋人と慕っていた何善之に強いられて、イギリス人相手の慰安婦にされてしまう始末。しかもベッドの中でイギリス人に斬りつけて、何善之ともども映画の舞台から退場してしまう。そもそも市民の立場から時代を描くのは限界があるから、これは正しいんですけど……。

 中国の屈辱的な歴史のひとこまを描きながら、イギリスを単なる悪役に描いていないところが公正だと思う。当時のイギリス議会の誠実さが、中国に野心を持つ商人や一部役人によって裏切られて行く過程がうまく描けているし、当時の中国が陥っていた独善的な中華思想の弊害や、軍事面での立ち後れなども徹底して糾弾されている。中国人が阿片戦争を「負けるべくして負けた戦い」と描く潔さに、僕は好感を持ちました。


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