現代任侠伝

1997/10/03 東映試写室
普通の内容の物語を普通の配役で作って普通以下の映画にする。
降旗監督の演出は相変わらずテンポが悪い。by K. Hattori



 やくざの世界から足を洗った男が、仲のいい兄弟分の非業の死をきっかけに、やくざ稼業に後戻り……、というお決まりの筋立てを、奥田瑛二主演で描く降旗康男監督作品。今さら何の新味もないこの物語を、なぜ作らなければならないのかという根本的な疑問もあるが、それ以前に、何の新味もないこの程度の話がきちんと作れないのはなぜかという、はるかに大きな疑問を持ってしまう。この手の話はやくざ映画の定番です。定番をきちんと作ることができないのは疑問だし問題です。要所要所で話のツボを押さえて行けば、2時間弱でたっぷりと楽しめる娯楽作が作れるはずなんです。なぜできない?

 そもそも配役に問題があります。どうして奥田瑛二主演なんでしょう。奥田瑛二は客を呼べるスターではありません。興行面でのメリットがないとすれば、この配役は映画の内容を考えてのものでしょうか。映画を観ればすぐわかることですが、奥田瑛二はこの役に対してミスキャストです。彼は「元やくざの芸能プロモーター」には見えません。僕は時々頭の中で映画の配役を入れ替えた様子を想像して遊ぶのですが、例えばこの映画で、主人公の奥田瑛二と敵役の石橋蓮司を入れ替えてみると、案外その方が話としてはしっくり納まるような気もしてくる。この映画では、西城秀樹もやくざの親分に見えないし、島田紳助も役人には見えないけど、このあたりはゲストだからしょうがないね。長門裕之のやくざ役はもう見飽きたって感じだな。やくざ役なら『なにわ忠臣蔵』の吉良役の方が面白かったけど……。

 登場する人間はさほど多くはないのだが、配置があやふやで途中混乱するところがある。余計なエピソードも多いし、省略してはいけない部分を省略してしまった部分もある。人物配置のあやふやさの典型は、とよた真帆演ずる奥田瑛二の秘書と、宅麻伸演ずる石橋蓮司の副新幹部の存在。ふたりは兄妹なのだが、その設定があまり生きていない。とよた真帆の扱いに至っては、制作現場で極端な混乱があったことがうかがわれる。映画の後半を観る限り、彼女は奥田瑛二を一方的に慕っているだけで、奥田は彼女を単なる秘書だとしか見ていないようだ。彼女は奥田に抱かれることを夢見ているが、それは最後まで果たされることはない。ところが、彼女の登場シーンを見ると、奥田の寝泊まりしているホテルで下着姿でコーヒーを入れてるんだよね。要するに、彼女は奥田の秘書兼愛人なのです。このあたりは完全に混乱してる。彼女の兄の宅麻伸も、どの時点で自分の親分である石橋蓮司を裏切ることを決意したのかが不明確。最初は妹の幸せなどお構いなしに、奥田を潰そうと熱心に働いていたようにも見えたのだが……。

 奥田の別れた妻と子供の関係など、脚本が欲張りすぎなんです。こんなエピソードは不要でしょう。かたぎになった男とやくざ社会の話なのに、最後の最後に親子の問題に話をすりかえてしまうのは白けてしょうがない。知らぬとは言え、子供に親殺しをさせるのも不快だ。


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