ハッピィブルー

1997/10/09 松竹第1試写室
語り口のうまさから、さえない境遇の主人公に思わず共感させられる。
バーバラ・ハーシーが熟女の色気をふりまいてます。by K. Hattori



 葬式と結婚式が重要なエピソードとして盛り込まれているあたりは『フォー・ウェディング』を連想させ、恋人がありながら母親ほども年の違う年上の女性と関係を持ち続けるというあたりは『卒業』を思い出させ、主人公の情けなくも健気な態度はウディ・アレンの映画を彷彿とさせる。気がついたら周りの友人たちが次々と結婚して行く青春末期、高校時代からの友人同士がワイワイガヤガヤと青春時代の終わりを謳歌する物語です。いつまでも子供でいたいというモラトリアム気分から抜け出して、みんな早く大人になろうよ、というメッセージが込められているような気もしました。

 映画はいきなり、ガレージの中での排ガス自殺の風景から始まります。死んだのはビル・アバナシー。発見者でもある母親ルースは主人公のトム・トンプソンに電話をよこし、「親友だったあなたに葬儀に参加してもらいたい」と告げます。ところが当のトムには、ビルという名前の友人にまったく心当たりがないのです。

 原題の『The Pallbearer』は、辞書によれば「棺をかつぐ人/棺の付き添い人 《死者に特別親しかった人がなる》」という意味だそうです。まったく顔も名前も知らない赤の他人の葬儀に、もっとも親しい友人として参加し、あろうことか弔辞まで読んでしまう主人公。顔を見て思い出すかと棺の中を覗き込んでみても、まったく心当たりなし。考えに考えたあげく「ビル・アバナシーとは誰か?」と語り出す、主人公の途方に暮れた表情は見ものです。事情を知っている友人たちは腹を抱えて笑い転げ、残された親戚親族一同は風変わりな弔辞を文学的表現だと好意的に解釈して感動しているおかしさ。不謹慎ですが、この映画の中で最高に面白い場面です。

 死んだビルの母親を演ずるのは、秋公開の『ネイティブ・ハート』にも出演していたバーバラ・ハーシー。女性の年齢を話題にするのは失礼ですが、彼女は1948年生まれで、この映画の完成時は48歳。25歳の青年の母親という設定に無理はないのですが、この色っぽさは驚異です。主人公が彼女と一線を越えてしまう描写に不自然さがないもんね。「あんな女性が側にいたら、僕だって一線を越えちゃうよ〜」という同情を持たせるだけの説得力が、バーバラ・ハーシーの存在にはある。この映画の成功の功績の半分は、彼女にあります。ヒロインのグウィネス・パルトロウも素敵でしたが、ハーシーの熟女の魅力にはかなわないなぁ。

 主人公トムを演じたデヴィッド・シュワイマーは、テレビ番組「フレンズ」のレギュラーだそうです。特別ハンサムというわけでもないので、主演映画はなかなか難しいかもしれないけど、脇役俳優として今後もちょくちょく映画に出てきそうです。『誘惑のアフロディーテ』『ネゴシエーター』のマイケル・ラパポート、『ハーモニー』のトニ・コレットなど、成長株の若手俳優がぞろぞろ出演しているのも見どころ。この映画は新人監督のマット・リーヴスのデビュー作です。


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