ジャングル2ジャングル

1997/10/20 ブエナ・ビスタ試写室
仕事ぶりや恋人・息子への態度も含めて、主人公がどうしても
「いい加減な人」にしか見えない。by K. Hattori



 ジャングルの野生児がパリで大騒動を巻き起こすというフランス映画を、舞台をニューヨークに移してディズニーがリメイク。僕は生憎とオリジナル版を観逃しているので、どこまでがオリジナルのアイデアで、どこがアメリカ流のアレンジなのかはわからないが、少なくともこの映画では、中心になるストーリーラインが途中で大きくブレるところが気になった。焦点が定まらないまま物語は迷走飛行して、エンディングの遥か手前で墜落炎上しているような気がする。

 ニューヨークで先物のディーラーをしている主人公リチャードは、13年前に家を飛び出したまま音信不通だった妻が、いよいよ離婚に応じてくれると大喜び。離婚が成立しだい、新しい恋人と結婚することにもなっている。ところが妻に呼び出された先は、アマゾンの奥地。そこで医者をしている妻は、現地のインディオたちに混じって遊びまわる白人の少年を指差して、「13年前に生んだあなたの息子だ」と告白する。

 「13年ぶりに対面した父親と息子が、互いの生きてきた生活習慣や文化の相違を乗り越えて、固い絆で結ばれて行く物語」というのが、この映画の中心になるコンセプト。行きがかりから子供を押しつけられた主人公が、都会の生活にチグハグな反応を示す野生児を相手に、苦心惨澹する様子がコミカルに描かれます。問題はこうした主人公の立場や態度に、観客が少しも共感できないこと。共感できないから、笑うこともできない。

 「ジャングルの野生児」という設定は非日常なのだから、都会人である主人公のキャラクターは思いきりリアルに描かれなければならないはずだ。そうすることで、都会とジャングルの生活のギャップが笑いを生むこともあるだろうし、都会人が常識としていることの不合理さを皮肉る視線も生れる。この映画の主人公は、行動や反応がマンガチックで、「我らが隣人」という感じがしない。大げさに目玉をむき、大声でわめき散らし、仕事の危機にも平気な顔で、子供は放ったらかし。彼は生活の中で、何が一番大切なのだろう。それはお金だろうか? 仕事だろうか? 恋人だろうか? そこが明確になっていないから、彼が最終的に、息子を得る代償として何を捨てたのかがわからない。

 この映画の中でもっとも共感を呼ぶ人物は、主人公の同僚であったり、主人公の新しい恋人であったりするわけです。彼らは僕たちの隣人として、きちんとリアルに造形されている。彼ら隣人たちが、野生児とその父親にどれだけ迷惑な目に合わされていることか……。他人にかけた迷惑を上回るだけの魅力が、主人公たちにあれば言いのですが、僕はそうした要素をこの映画からは見つけられませんでした。

 少年の成長物語としても中途半端だし、父親が息子を取り戻す物語としても甘っちょろすぎる。主人公を演じたティム・アレンは『サンタクローズ』の時と同様、厳しい日常から逃げ出して別世界へと逃避するのです。


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