リック

1997/10/30 シネカノン試写室
旧ユーゴで撮影され長らく所在不明だったブラッド・ピットの初主演作。
ブラピのかっこよさと風景の美しさは見事です。by K. Hattori



 今から9年前の夏に撮影され、当時23歳のブラッド・ピットの映画初主演となった記念すべき作品。旧ユーゴスラビアの小さな村を舞台にロケ撮影されていたフィルムは、撮影終了直後に勃発した内乱で各地に散逸し、長らく所在不明となっていた。プロデューサーのアンジェロ・アランジェロヴィッチは、戦時下のバルカン半島に幾度も足を運び、各地にバラバラになっていたフィルムの断片を丹念に回収し、ようやく完成したのがこの『リック』という映画なのです。映画の内容は「難病を持った青年の一夏の恋を綴った青春ドラマ」といったところで、作品としての面白さはあまりない。見どころは若々しいブラッド・ピットの姿と、戦火に包まれる前のユーゴスラビアの美しい風景ぐらいでしょうか。ブラピのファンなら迷わず観に行かなければならない映画でしょうが、そうでない人にロケーションの美しさがどれだけの魅力になるのかは疑問です。

 肝心のブラッド・ピットも「アレルギー症」という設定なので、映画の序盤ではぴったりとした革のスーツに全身がすっぽり覆われ、顔を見ることができない。このマスクのデザインが、なんだかSMチックで笑っちゃいましたけど、作っている方は至って真面目なんでしょうね。困ったなぁ。「若い頃のブラピが見たい!」という観客からすれば、どうせ中身はブラピだってわかってるんですから、とっとと御尊顔を拝見させていただきたいもんです。こういう観客のじらし方って、ほとんどモンスター映画や宇宙人映画と変わらない。若い頃のブラピって、そういう扱いだったのね……。まあ難病物というジャンルそのものが、そもそもキワモノなんだけどさ。

 マスクを外したリック青年は、町で出会ったアメリカ人の女性に恋をする。ところが女性の方は、マスクをした謎めいた男の方に興味津々で、美々しい素顔のブラピは形無しです。ここで一言「マスクの男も僕ですけど……」と言ってしまえば話は簡単なんですが、生れて初めてマスクを外して異様な躁状態になっていたリックは、イタズラ心から「マスクの男は僕の友人だよ」と言ってしまう。こうしてリックは、あこがれの女性とマスクを着けた自分自身の間を取り持つキューピット役を演じることになる。マスクを外したら3日間しか生きられないというのに、ややこしいことをして時間を使う男だ。

 リックと父親の関係や、母親の病気のエピソードなど、いろんな要素を盛り込もうとして中途半端になっています。リックと女性のエピソードを中心にして、他をサブ的な扱いにした方がよかったと思うけどな。

 当時新人のブラッド・ピットは、粗削りながらスターの片鱗を見せています。立ち姿など惚れ惚れするようなかっこよさ。プレス資料を見ると、プロデューサーが「当時の彼は撮影に協力的だった」「役作りにかける情熱には感心した」「スタッフとも仲がよかった」「女性には潔癖だった」と誉めちぎってます。ここまで誉められると、何となく裏を勘ぐりたくなるけどなぁ……。


ホームページ
ホームページへ