海辺の女たち

1997/10/31 ユニジャパン試写室
1963年に製作された台湾製の青春映画。この泥臭さが逆に新鮮だぞ!
物語はありきたりだが、力強い演出に引き込まれる。by K. Hattori



 台湾映画祭に出品される映画の内の1本。直前に同じ映画祭に出品される『チュンと家族』を観て頭を抱えてしまったので、「今度も似たような映画だったらどうしよう」と思ってたんですが、その心配が吹っ飛ぶ大傑作。1963年製作の青春映画ですから、筋立てはどうしようもなく古い。しかし演出にそんな古臭さを吹き飛ばす力強さがあるので、観ている内に映画の中にぐいぐいと引き込まれて行きます。

 牡蠣の養殖に精出すヒロインと、彼女と愛し合いながらも貧しさゆえになかなか結婚できない漁師の青年、ヒロインに横恋慕する遊び人、それを知ってヒロインに嫉妬する遊び人の恋人など、人物配置は完璧。漁村を舞台に繰り広げられるあまりにも健全な恋愛劇に、現代人の心が洗われることは必定です。なんでもこうした映画は「健康写実路線」と言って、当時の台湾の国策映画だったらしい。「路線」と言うぐらいですから、おそらくこの類の映画は無数に作られているのだと思いますが、その中でもこの映画は傑作の部類だそうです。

 随所に見られる健康的なエロチシズムは、当時の男性客のハートをばっちりキャッチしたことでしょう。牡蠣の養殖場で働く、無数の若い女たち。干潟に入っての仕事なので、全員素足で、しかもフトモモまで見えてます。ヒロインが薄着で水に飛び込み、着衣が身体にぴったりと張り付く場面もありますし、パンチラシーン(なぜかパンツが赤い!)もあります。ヒロインと意地悪な若い女が、干潟で取っ組み合いの喧嘩をする場面など、ほとんどドロレス状態。ヌードこそありませんが、むしろこうしたチラリズムの方が観る者の煩悩を刺激します。

 煩悩といえば、ヒロインは恋人の船で濡れた服を乾かし、そのあまりの無防備さに恋人が辛抱たまらず押し倒したことから、ふたりは初めて結ばれる。ベッドシーンは省略して、翌朝のふたり。踊るような足取りで朝帰りの道を歩くヒロインも、前夜の彼女を思い出してうっとりする恋人も、観ている側が恥ずかしくなるぐらいにデレデレニカニカしてます。これが中途半端だと「あ〜、勝手にしてれば〜」という感じで終わってしまいますが、それを徹底的にしつこく描写していると、なぜか「おお、よかったな」という気分になってくるから不思議だ。

 互いの愛情の深さを心と身体で確かめ合ったふたりは、ヒロインの父親に結婚の許しを請いに行く。ところが強欲な父親は、高額な結納金をふっかける。金を稼ぐにはまた長い漁に出るしかない。泣きの涙で別れるふたり。だがふたりは知らなかった。彼女のお腹の中に、ふたりの愛の結晶が芽生えたことを……。ヒロインは愛する恋人の子供を産もうと決意。だが恋人にそれを伝えるすべはない。周囲の嘲笑に耐え、後ろ指を差されながらも健気に生き抜くヒロイン。このあたりは缶詰工場の建設過程を見せて時間経過を説明するなど、それなりに工夫してます。最後は当然ハッピーエンド。それにしても、電話がないのはわかるけど、手紙ぐらい出せるだろ!


ホームページ
ホームページへ