ルーズ・ソックス

1997/11/04 ユニジャパン試写室
編集の面白さでつい観させられてしまう映画だけど、それも最初の30分だけ。
後半は内容面でもボルテージが下がって退屈なだけ。by K. Hattori



 原作・脚本・監督は、『アイコ十六歳』『すももももも』の今関あきよし。主演が『岸和田少年愚連隊』の大河内奈々子。上映時間は62分。全編ビデオ撮りなのは別に構わないけど、映画の中身が何を言いたいのかさっぱりわからない。髪の毛をピンク色に染めた女子高生が仲間と一緒に店からガムを万引きし、それをとがめて追いかける若い店員と延々追いかけっこをしたからといって、それが何だと言うのだ。前半はサブ監督の『弾丸ランナー』を思わせもしたけれど、後半になると、主人公の幼少時の記憶や何やらを出してきて、映画の持っていたスピード感は大幅にダウンする。

 登場人物は、主人公ピンク、相棒のピース、まるで漫才コンビのスケちゃんとカクちゃん、4人を追っかける顔面ピアスの水ぼうそうなど。たったこれだけの人物なのに、主人公ピンクとピース以外は、人物設定がほとんどなされていない。4人の少女たちを追いかけるピアス少年も、なぜ彼がそうした行動に出るのかについての説明は一切ない。もっとも、こうした人物設定が映画に不可欠なものではないし、一度人物たちが動き始めてしまえば、そんなものは不要だとも言える。事実、この映画でも前半では人物設定の希薄さがほとんど気にならない。だが後半になって主人公ピンクの生い立ちや過去の事件を掘り下げてくると、他の人物との描写密度の違いが気になってしまう。彼女は主人公だから、他の人物に比べて描写が濃くなるのはやむを得ないとも言えるけれど、前半のピンクはそんなに存在感のある主役ではないのです。この映画を観て、ピンクに感情移入できる人が、どれだけいるのでしょうね。僕には疑問です。

 62分という上映時間は一般的な劇場映画としては短いものですが、これで2時間の映画を作られても僕はちょっと困る。今関監督は持田真樹主演の『すももももも』でも、少女のひとりよがりな自己耽溺性にべったり寄り添う物語を作っていたけれど、今回の『ルーズ・ソックス』でも、自分の不幸な過去にこだわり続ける少女を、何の批判もなく描いている。彼女の支離滅裂で身勝手な行動は、すべて彼女の不幸な過去によって説明され、彼女の可哀相な身の上話に対する観客の涙を免罪符に、あらゆる行動は正当化されてしまう。

 今の時代に女子高生を描きながら、この映画にはどんな野心も志しも見えてこない。映画に登場する彼女たちの現実は、スクリーンのこちらにいる観客とは切り離されている。彼女たちが泣こうが笑おうが、映画を観る観客には関係のない話だ。

 ビデオ撮りの映像は走査線間の黒い筋が目立って、お世辞にもきれいな映像とは言えない。でもこの手の映画は、ビデオ発売してナンボの商売。ビデオ撮りしてビデオで発売することを目的にした映画なんだから、フィルムと比較して画質の話をしていても仕方がない。フィルムの質感にこだわるのは一部のマニアだけ。そんな人は、こんな映画を観てはいけないということなんでしょうね。


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