ハンガー
トリロジー

1997/11/05 渋谷パンテオン
(東京国際ファンタスティック映画祭'97)
映画としては食い足りないところもありますが、これは企画としの面白さ。
3つのエピソードに各監督の個性が見えます。by K. Hattori



 リドリー・スコットとトニー・スコット製作総指揮のTVシリーズ『ザ・ハンガー』のスペシャル版として製作されたオムニバス映画。北米ではCATVでTVシリーズの第1回目に放送されたが、ヨーロッパやアジアの一部では劇場公開されている作品だ。テレビ放送版を事前にビデオで見ていたのだが、そちらは画面サイズがスタンダード、劇場版は通常の映画と同じビスタサイズになっている。もっともこれは、劇場用のビスタサイズをトリミングしてスタンダードにしたのではなく、テレビ用のスタンダードサイズを上下マスクしてビスタにしているようだ。どちらのサイズが製作者たちの意図したサイズなのかはわからないが、映画館の暗闇の中では少し横長のサイズが映えると思いました。

 画面サイズの違いの他に、映画用にタイトルの文字が少し変更されているなどの違いはありますが、基本的にテレビ放送版も映画版も同じ内容です。フィルムを輸入する段階で税関から修正を求められた場所が、少しカットしてありますが、ほとんど気になりませんでした。むしろ今回気がついたのは、劇場とビデオとの音響の違いです。3つのエピソードの内、2番目の「三角関係」はビデオで見ると他の2エピソードに比べて退屈に感じたのですが、劇場では音響効果が抜群で、見劣りのしない物語に仕上がっています。こうした音響の差は、かなり設備の充実したホームシアターでない限り、家庭では味わうことのできないものでしょう。そもそも、ビデオにそこまでの情報が盛り込んであるのかな……。

 トニー・スコットが監督した第1話「剣」は、逆光や半逆光の光線を効果的に使った映像が見事。謎めいた踊り子ムシドラを演じたアマンダ・ライアンが初々しく、金持ちの御曹司バルサザール・ゲティが化粧品会社の御曹司を演じるという「そのまんまキャスティング」も効果的。若いカップルの恋の始まりと終わりを、情感たっぷりに描いた佳作に仕上がっている。デビュー作の『ハンガー』以来、一貫して大スター主演作を撮ってきたトニー・スコットが、若手の役者と組んで、自分の作りたいものを撮っている感じがしました。

 第2話の「三角関係」は、MTVやCFの世界で活躍中の新鋭ジェイク・スコットの映画デビュー作。ジェイクはリドリー・スコットの息子ですから、トニーとは叔父と甥の関係です。ビデオで見ていたときは「何とかの七光りで撮らせてもらってるんじゃねぇの?」と思ったものの、劇場で観たら音に工夫があったというのは前記の通り。本人は完全に劇場映画を作っているつもりです。

 おバカなオチが最高におかしい第3話「ネクロス」を撮ったラッセル・マルケイは、TVシリーズ『ザ・ハンガー』でも2つのエピソードを撮っている、この企画の中心人物のひとりです。この人もMTV出身なんですよね。スコット兄弟はCF出身ですし、このシリーズには「異業種出身監督」が多いです。ハリウッドのスタジオではない、スコット兄弟の人脈なんでしょうね。


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