アルビノ・アリゲーター

1997/11/20 シネセゾン試写室
人質を取って篭城する3人組は何を犠牲にして脱出するのか?
俳優ケビン・スペイシーの初監督作品。by K. Hattori



 『セブン』や『ユージュアル・サスペクツ』で映画ファンを唸らせた、現代の名優ケビン・スペイシーの映画監督デビュー作です。俳優の監督作というと、自分も出演するのが半分お約束みたいなものですが、この映画にはスペイシーの出演なし。スペイシーのファンにとっては、喜びもお楽しみも半分というところでしょうか。僕もちょっと残念だった。小さな役でもいいから、ちらりと顔を出してくれるとよかったのに。例えばこの映画でジョー・モンテーニャが扮していた刑事の役など、スペイシーにぴったりだったんじゃないかな。

 3人組のけちな事務所荒らしが、警報機に驚いて何も盗らないまま逃走。偶然近くで武器密売人を捜査していた刑事たちは、この泥棒を密売人と勘違いして追跡を開始する。時ならぬ大捜査網に驚いた3人組は、近くにあったバーに飛び込むと、頭に血が上ったまま、バーテンと客を人質にして立てこもってしまう。出口はひとつ。外には警官たちがひしめき合っている。さあどうする!

 気の弱い3人組の泥棒を演じているのは、マット・ディロン、ゲイリー・シニーズ、ウィリアム・フィッチナー。警官との追跡劇で、リーダー格のシニーズは瀕死の重体。シニーズの弟で少しのろまに見えるディロンと、追いつめられて狂暴になっているフィッチナー。彼らはもともと手際の悪い事務所荒らしをしているぐらいですから、筋金入り、本式のワルというわけではない。言ってみれば、街をうろついてごみ箱をあさる野良犬の類です。しかしそんな野良犬も、追いつめられれば狂暴な牙をむく。俗に弱い犬ほどよく吠えると言いますが、不必要に銃を振り回すマット・ディロンを見ていると、まさにその言葉がぴったりと当てはまる感じです。

 物語はバーの中だけで進んで行き、外の様子は時々思い出したように挿入されるだけ。まるで舞台劇のような雰囲気なのですが、これは映画用のオリジナル脚本です。『アルビノ・アリゲーター』というのは、何万分の1の確率で生れる白いワニのこと。野生のワニの群れの中でこのアルビノ・アリゲーターが生れると、他のワニたちはこれを敵対するワニの群れの中に生け贄として差し出す。個体としての力が弱い白いワニはすぐに食い殺されてしまうが、その隙に、他のワニたちは敵対するワニたちを倒して縄張りを広げるのだと言う。ここで描かれているのは、何かを犠牲にして生き延びる生命の姿。バーの中に閉じ込められた人間たちは、何を犠牲にして生き延びようとするのだろうか。

 監督のケビン・スペイシーは、舞台劇風のこの脚本を逆手に取り、本当の舞台作品のように演出している。十数日に渡るかなり入念なリハーサルをして、撮影も物語のアタマから順に撮っていったという。こうすることで、追いつめられて行く人間の緊迫感が、リアルにフィルムに定着されている。中盤まではすごくいいのだが、終盤の手際がすこしバタついてしまったのがもったいない。ここは演出のテンポをがらりと変化させるべきだった。


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