桜桃の味

1997/11/27 シネセゾン試写室
前半はほとんど寝てしまいましたが、内容は一応飲みこんだつもり。
'97年カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作品。by K. Hattori



 今村昌平の『うなぎ』と共に、今年のカンヌ映画祭でパルム・ドール(グランプリ)を受賞した映画。『うなぎ』、新人賞であるカメラ・ドールを取った『萌の朱雀』、そしてこの『桜桃の味』を並べてみると、今年のカンヌの評価傾向がなんとなくわかるような気がします。ふーん、こういう映画が好きなわけね。ちなみにこの映画のタイトル、僕はずっと「さくらんぼのあじ」と読むものとばかり思っていたら、配給会社の人は「おうとうのあじ」と紹介していた。英語タイトルは『Taste of Cherry』だから『桜桃の味』はその直訳。でも普通の日常生活の中で「おうとう」って言葉を使うか? 確かに辞書には「おうとう【桜桃】」という見出し語があるけど、僕は30年以上生きてきて「おうとう」なんて口に出して言ったことがないよ。辞書には「さくらんぼ」にあたる漢字として「桜桃・桜ん坊」が載っている。この件については、配給会社に再確認してみるつもり。

 1時間38分の映画ですが……、申し訳ない! 僕は半分以上寝てました。試写室です。ヒンシュクです。いびきはかいてなかったと思いますが、半分以上寝たのは初めてです。うつらうつらするたびに「イカンイカン」と必死に目を開けるんですが、とにかく、中盤までの1時間ぐらいは、どの場面を観ても同じ風景の連続。主人公の乗るレンジローバー、禿山にジグザグに続く砂埃の舞う山道、助手席には主人公の話を聞く男。男は同じ風景の中をいつまでもグルグル回り続ける。男の話はいつも同じ。「私は今夜自殺する。明日の朝、私が穴の中に横たわっているのを見たら、2回名前を呼んでほしい。目を覚まさないようなら、そばにあるスコップで土をかけて埋めてくれ。お礼はそれ相応のものを用意するから……」。この話を、出会う人ごとにする主人公。相手はビビって逃げる。そりゃ逃げるさ。僕も逃げるよ。

 男がなぜ自殺を考えたのか、それはわからない。(寝ている内に説明していたわけではないようです。)ただ男の自殺願望はどうやら本当らしい。冗談にしては念が入りすぎている。でも本当に自殺したいのなら勝手にひとりで死ねばいいわけで、それができないで他人に後始末を頼むというのは、そこにある種の逡巡があるのか、あるいはこの映画自体をひとつのファンタジーととらえるべきなのか……。おそらく両方なのでしょう。

 男は自殺の条件として道行く人たちに無理難題を吹っかけ、それを拒絶されることで辛うじて「生」に踏みとどまっている。こういう生き方をしている人たちは、きっと多いよね。直接「死」と向き合うことはなくても、目の前にある「何か」のために、死を直接意識せずに済む人は多いはず。この映画に出てくる男も、案外そんな男のひとりなのかもしれません。ところが男の無理難題を「いいよ」と快く引き受ける人が現われた。いざ目の前にポッカリと「死」の現実が口を開いた瞬間、男の中で大きな意識の変革が生まれはじめる。(このあたりからはすっかり起きてた。)それなりに面白い映画です。


ホームページ
ホームページへ