北京原人
Who are you?

1997/12/02 東映第1試写室
最新のDNA操作技術で、50万年前の北京原人が現代に甦る。
こんな映画が今でも作れるんだからスゴイ。by K. Hattori



 今年は『失楽園』と『エヴァンゲリオン』が好調で舞い上がっている東映ですが、お正月作品になっているこの映画で、その儲けをすっかり吐き出してしまうことでしょう。これは邦画界が放つ、久々の問題作です。こんな映画が作られ、配給されてしまうことが、由々しい問題だという意味での「問題」作なのです。破綻したプロットをエピソードの厚化粧でごまかそうとしたあげく、そのゴテゴテした厚化粧がぼろぼろはがれてくる惨澹たるストーリー展開。加えて、どう考えても無理のあるミスキャスト。これでは役者たちがどう芝居をしようと、監督がどう演出しようと、結果は目に見えています。これって、シリアスな話を本気で作っているつもりなんでしょうか? それとも、大仰に振りかぶったあげくバナナの皮で転ぶ類のコメディ映画? 僕が観たところ、これは「本気で作ったんだけど、観客にはふざけているようにしか見えない失敗作」です。エド・ウッド的な怪作と言ってもいい。この作品は東映が威信を賭けて放った久々の大型失敗作として、日本映画史上に残るでしょう。

 映画は1929年、中国で北京原人の頭骨の化石が発見されたところから始まります。やがて中国は戦渦に巻き込まれ、その混乱の中で化石は忽然と姿を消す。これは現在も歴史のミステリーとして、研究材料になっているらしい。この謎を発端に、早坂暁脚本で『北京原人』という映画を作るというから、僕は「太平洋戦争勃発前後の日中米の駆け引きを描くスパイ・アクション映画」になるのかと思っていた。監督は合作映画や中国関係に強い佐藤純彌だし、早坂・佐藤コンビには最近も『超能力者/未知への旅人』という佳作があるので、ここらはある程度信用していたんだけどなぁ……。

 できあがった映画は、化石から取り出したDNAを培養して、現代に北京原人を甦らせるという『ジュラシック・パーク』もどきのアイデアを核に、原人復活プロジェクトの担当研究者と原人たちの交流を描いた、ヒューマンなSFドラマというセンを狙ったらしい。核になるアイデアが二番煎じなのはともかく、この映画には設定部分に決定的な無理がある。それは、DNAから原人を甦らせたとしても、その原人に50万年前の「記憶」はないという当たり前の事実を無視していること。

 この映画には「当たり前のことを無視していること」が多すぎる。それを観客が気づかないように、うまーく嘘をついてくれるならまだしも、明らかに嘘と分かっていることを平気でエピソードに盛り込んでくるのは困りものです。この脚本は、どう考えたって変だよ。

 変なことを変なまま押し通してしまうから、この映画では、観客が笑うしかないような描写が乱打されている。原人復活プロジェクトの責任者が丹波哲郎というのが、そもそもギャグ以外のなにものでもない。シベリアでマンモス復活プロジェクトのリーダーをしているのは佐藤蛾次郎。この二人がテレビ電話で話している場面なんて、ギャグと解釈する以外にどう考えればいいの?


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