スポーン

1997/12/02 松竹セントラル1(試写会)
話題先行だった『スポーン』ですが、内容はそれを裏切らない仕上がり。
アメコミ界から新しいダークヒーローの誕生です。by K. Hattori



 アメコミ系の新ダークヒーロー、スポーンの劇場版です。原作はマンガなんですが、最初からキャラクター市場を見越したメディア・ミックス戦略をとっていて、既にアニメ版が先行して製作されています。

 原作者でこの映画でも製作総指揮としてスタッフ表の筆頭に名前があがっているトッド・マクファーレンという人は、もともとマーベルコミックで「バットマン」や「スパイダーマン」を描いていた人らしい。ところが米国のコミック界では版権ビジネスの主体が出版社になっていて、アーチストがどんなに創意工夫してキャラクターを生み出しても、その収益はすべて出版社が吸い上げる形になっている。マクファーレンは「スパイダーマン」でベノムという悪役キャラクターを創造したのですが、それによって彼は何の経済的なメリットも得ることはなかった。要するに、アーチストががんばればがんばるほど、出版社だけが儲かる仕組み。それに腹を立てたマクファーレンは出版社を飛び出して、自分でビジネスを始めた。そして生れたのが「スポーン」なのです。日本でも既にフィギュアやトレーディングカード、各種キャラクター商品が市場に出回りはじめています。

 近年のアメリカ映画には、『バットマン』を筆頭にして、悩めるダークヒーローが勢揃い。ちょっと抜き出しただけでも『バットマン』『ダークマン』『クロウ』『シャドー』などなど……。ティム・バートンが『スーパーマン』を撮るそうですから、それもまた悩みはじめるのでしょうか。これは単に作り手の趣味指向というより、市場の要請でしょう。その証拠に、悩まないヒーロー『ロケッティア』は、映画の出来が悪くなかったにも関わらず市場から消えてしまった。

 僕はこの手のアメコミヒーローものが嫌いじゃないですから、今回の『スポーン』も面白く観ることができました。主人公は元CIAの工作員で、上司の命ずるまま世界秩序安定のためと信じて要人暗殺などに従事していた人物です。ところが上司は自分の欲望のために、部下である主人公を悪魔に売り渡す。この世に怨みを残した主人公は、地獄の戦士スポーンとなって復活し、生前の復讐を遂げるのです。原作は地獄界・人間界・天上界が入り乱れての階級戦争という物語のバックボーンがあり、その中に主人公を放り込んでいる。映画ではそこまで物語が広げきれず、主人公の復讐譚レベルで終わってしまったのが残念。いろんな映画からの引用に見えてしまうエピソードも多いので、ずいぶん損をしています。

 監督のマーク・デッペがILMの特撮マン出身と言うこともあり、全編CGを使った特撮の嵐。スポーンの鎧やマントの描き方など、新しいところも感じさせます。しかしそれより驚いたのは、悪役に扮したジョン・レグイザモ。特殊メイクで作り上げた、風船のようにふくらんだ巨体をゆすりながら歩く様子に、僕は彼の役者魂を垣間見た気分です。彼のおかげで、この映画の格はずいぶんと上がっています。


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