上海グランド

1997/12/03 徳間ホール
アンディ・ラウ、レスリー・チャン共演で人気テレビドラマを映画化。
1930年代の上海暗黒街を舞台にした青春映画。by K. Hattori



 80年代に香港で放送されて人気と話題を集めたチョウ・ユンファ主演のテレビドラマを、アンディ・ラウ、レスリー・チャン、ニン・チン主演で映画化した作品。プロデューサーはツイ・ハーク。監督はこの映画が日本初登場の実力派プーン・マンキッ。オリジナルのドラマは1時間枠で25話連続だったというのですから、それを1時間36分にするのは荒業です。当然ですが多少の無理も出てくる。男二人の友情をメインになっているため、ニン・チン演ずるヒロインの描き込みがいかにも中途半端になっています。レスリー・チャン扮する台湾人ホイ・マンキョンの人物造形も、もう少し掘り下げてほしかった。総じて人物設定の表面的な説明だけが行なわれていて、それが映画の中で血肉を持ったリアルな人間になりきれていないような気がします。

 舞台は1930年代の上海です。アンディ・ラウ扮する主人公ディン・リクが、やくざ社会の最底辺からトップにまで上り詰めて行くサクセス・ストーリーを大幅に省略して、アーカンという偽名で上海に潜伏している台湾の抗日志士ホイ・マンキョンとの友情と、ヒロインのファン・ティンティンをはさんだ三角関係にスポットを当てています。監督はこの映画について「この映画は時代背景について語ろうとしたものではない。暗黒街の抗争すら必要ないと考えている。これは、3人の若者の青春譚なんだ」と語っています。そういう意味で、監督の意図は明確なのですが、僕としては物足りなく感じた。

 物語を常に主人公たち3人の視点から描いていることで、全体が平板になってしまったのです。3人の他に、外部の視点がひとつかふたつあると、物語にずっと奥行きが生れたと思う。映画の中には、ホイ・マンキョンと対立する日本の女スパイや、ディン・リクの気持ちを裏切るティンティンの侍女や、ティンティンの父親など、魅力的な人物が多数登場する。ところがこれがあまり活かされていないのだ。監督がいくら「暗黒街の抗争すら必要ない」と感じていたとしても、主人公たちは否応なしにその抗争の中で生きているのだから、背景をもう少し描きこんでくれた方が親切です。

 物語の背後には、中国への日本進出、日本の実効的な中国支配、日本と結託して私腹を肥やす中国マフィア、日本支配下の台湾独立運動などがある。やがて日本と中国が全面的な戦争に突入する直前、表面上は辛うじて保たれている平和の中で、主人公たちは暗黒街の出世階段を上ぼって行くのです。つかの間の夢です。

 ラストの銃撃シーンは面白かった。気持ちのすれ違いによる悲劇。滅んで行く者の悲劇性、悲愴美がうまく演出されていました。このあたりはプロデューサーであるツイ・ハークの趣味もあるのかもしれませんが、香港映画の銃撃戦には高い美意識が感じられますね。もともと香港の黒社会映画は日本のやくざ映画の翻案として始まったものなんでしょうが、今では独自のスタイルを確立しています。日本は逆に彼らの手法を真似すべきです。


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