るろうに剣心 明治剣客浪漫譚
維新志士への鎮魂歌(レクイエム)

1997/12/15 ソニー試写室
アイデアは悪くないのに、時代考証に難点があって白けてしまった。
風俗描写には目をつぶれても歴史は無視できない。by K. Hattori



 少年ジャンプに連載され、テレビアニメも好評な「るろうに剣心」の劇場映画版。幕末の世に「人斬り抜刀斎」と呼ばれ恐れられていた志士が、明治の世になって血刀を逆刃刀に持ち替え「人を斬るまい」と誓う。男の名は緋村剣心。……というのが物語の背景です。この映画では、時代が明治11年ということになってます。この時、剣心って歳がいくつなんだろう? 絵で見る限りは10代後半からせいぜい20代半ばなんだけど、幕末に人斬りとして働いていたとなると、そろそろ中年に差し掛かる歳なんじゃないのかね。

 この映画には薩長同盟を結ぶための会談場所を、抜刀斎たちが警護している場面が出てきますが、これは西暦で言うと1866年の出来事でしょう。明治11年はそれから12年後です。だから仮に抜刀斎がこの時18だとしても、明治11年には30歳というわけだ。このあたりって、原作ではどう描写してあるんでしょうか。僕は原作もテレビシリーズも熱心に見ているわけではないので、誰か教えてください。

 主人公の年令なんてどうでもいいんですが、この映画には何ヶ所か、時代考証的にひどく不可解な部分があります。明治政府の腐敗に憤った不平士族たちが上野の山に立てこもり「新・維新」を叫ぶという筋立てですが、この映画の中には他の氏族の反乱が一言も語られていないのが疑問です。じつは明治に入ってからも、新体制になじめない士族たちの反乱はしばしば起っています。明治7年の佐賀の乱、明治9年の熊本神風連の乱なども有名ですし、明治10年には西南の役も起っている。西南の役に関しては、東京でも大騒ぎをしていたはずです。その翌年になって、なぜ「新・維新」なのか。こんなもの、タイミングが完全にずれています。準備を進めていたのだとすれば、その前年に、九州の西郷挙兵に呼応する形で東京で兵を上げればよかったのです。前年に西郷が鹿児島の精鋭を揃えて挙兵したのに、善戦むなしく敗れたという事実を、「新・維新」を唱える連中はどう考えていたのだろうか。このへんを描き込んでくれると、この映画はぐっとリアリティが増したのにな……。

 反乱軍の主力が上野彰義隊の子弟たちだという設定も、僕には釈然としなかったし、挙兵に失敗した連中が上野の山にたてこもるという設定は絶対に納得できなかった。上野戦争は官軍の砲撃がはじまって半日ほどで終わってますし、大半の兵士は戦闘開始と共に脱走を開始しています。上野戦争の中に凄惨なシーンがなかったとは言いませんが、そこで父が殺されたからといって、明治政府を恨むような筋合いの戦争だったのかは疑問。上野戦争の時点で、幕府は官軍に恭順の意を示していたし、将軍も江戸から離れていたはずです。彰義隊にはどんな大義もないんです。兵士たちのほとんどは、金目当てで参加していた連中ばかりだったし……。

 というわけでせっかくの映画ですが、多少歴史をかじったことのある者には物足りない出来でした。残念。


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