裸足のトンカ

1998/01/20 徳間ホール
(完成披露試写会)
ジャン=ユーグ・アングラートが監督・脚本・主演したラブストーリー。
トンカを演じたパメラ・スーは現在彼の奥様です。by K. Hattori



 『ベティ・ブルー』や『ニキータ』で日本にもファンが多いフランスの俳優、ジャン=ユーグ・アングラートの初監督作品。彼はこの作品で、監督し、脚本も書き、主演もしている。彼が演じているのは、競技者としてのピークを過ぎ、体力の衰えと気力の萎えを感じているスプリンター。彼は競技からの引退を決意しながらも、次に立ち向かうべき人生の目標も見つからず、ボンヤリと日々を送っている。そんなとき彼が出会ったのが、インド系の女性トンカ。「女性」というより、まだ「少女」と呼んだほうがぴったりとくるあどけなさ。彼女は、天真爛漫な自然児。コカコーラの缶をかたどったサインディスプレイの中で暮らし、飛行機を見るのが大好きなトンカは、とにかく足が速い。主人公のスプリンターは、そんな彼女を競技選手として育てようと決意する。

 トンカを演じたパメラ・スーが、素晴らしい走りを見せて、物語に説得力を与えている。こういうスポーツ選手をテーマにした映画で、明らかに鈍足のランナーが登場した日には興ざめですからね。もちろん速く見せるには、それなりの映像テクニックも使っているのでしょうが、身体につく筋肉や、走っているときのフォームは誤魔化せません。この映画もその道の専門家が見ればおかしな点は多いでしょうが、僕のような素人から見ると、彼女の走りっぷりはなかなか堂に入ったものでした。なんでも彼女は専用コーチについて、2年間もトレーニングしたとか。1日3時間の練習を週に6日こなしたというのだから、すごいよね。愛あればこそだよな。

 パメラ・スーとジャン=ユーグ・アングラートは、この映画を撮る少し前に結婚しています。結婚するまで6年越しの交際だそうです。監督・脚本のアングラートは、彼女との交際の中で、脚本を練り、まったくの素人だった彼女に演技を教え、トンカのキャラクターを膨らませていった。この映画はジャン=ユーグ・アングラートというひとりの男が、パメラ・スーというたったひとりの女性のために作った愛の映画なのです。この映画の中で、パメラ・スーはじつにチャーミングに撮られている。これもみな、監督の愛があればこそ。監督が女優に惚れてると、主人公がヒロインに惚れる過程に余計な説明がいらなくなって、映画にスピード感が出てくるんです。でも「余計な説明が要らない」ということと、「説明が要らない」ということは違う。最低限の説明は必要なはずなのに、この映画にはそれがない。

 この映画には、不可解な点が多すぎるのです。トンカのキャラクターが、僕にはやはり納得できない。彼女の天真爛漫さを支えているものは、一体なんなのか。彼女にとって飛行機はどんな意味があるのか。そして、なぜ彼女はあんな最後を遂げねばならなかったのか……。監督にとっては、自明のことかもしれないけど、これはやはり観客にもきちんと説明してほしい。ヒロインの魅力を、観客にもわかるように描いてこそ映画です。「彼女の魅力は僕だけが知っている」では困るんだよ〜!


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