ミミ

1998/01/28 エース・ピクチャーズ試写室
母親の入院で伯母の家に預けられた少女ミミの孤独と恐怖。
グロテスクなフランス映画『カルネ』の姉妹篇。by K. Hattori



 『カルネ』という不思議なフランス映画がありましたが、この映画はそれに近いテイストを持った50分の中編映画です。それもそのはず、この映画の製作と撮影を担当しているのは『カルネ』の監督だったギャスパー・ノエ。本作がデビュー作となるルシール・アザリロヴックは、ノエ監督のパートナーであり、『カルネ』では製作と編集を担当した人物です。近親相姦をテーマとした『カルネ』に対し、幼女性愛をテーマにした『ミミ』。ふたつの映画は、ひとつのルーツをもつ双子のような映画なのです。『カルネ』が好きな人は必見でしょう。

 恋人に去られた母親が自殺未遂を起こして入院し、伯母の家に預けられた少女ミミが主人公。姪っ子を引き取ったものの、伯母には彼女を手元に置いておくだけの精神的な余裕がない。伯母は年下のボーイフレンドと同棲しているせまいアパートの中で、ミミをどう扱っていいのかわからないのです。どこまでも孤独なミミ。物語は常に、彼女の一人称の視点で語られます。

 この映画の面白さは、少女の視点を表現するのに、シネマスコープ画面を使っていること。実際に観た印象だと、通常のシネスコよりさらに横長の画面のように感じました。16ミリカメラにアナモルフィックスレンズを取り付けて撮影し、プリント時に35ミリにブローアップ。こうして生み出された、ざらざらと荒れてコントラストの強い画面が、少女の心象風景を表現しています。画面の色彩が常に黄色と緑色で統一されていることも、物語に異様な雰囲気を生み出している。道で遊んでいる子供たちの服が緑、アパートの壁が緑、伯母さんの服も緑、そこに回覧板を持ってくる女の人のシャツが緑で、持っている回覧板が緑色。異常なこだわり方です。

 伯母のボーイフレンドとミミの関係は、『カルネ』に登場した近親相姦的父娘関係を連想させます。部屋の外に追いやられたミミが隣室の青年たちと一緒にいたと聞いた男が、取り乱し、逆上する場面は、『カルネ』のクライマックスで、父親が包丁片手に飛び出して行くシーンにそっくりです。自分自身の欲望を、外部に投影してしまうのですね。ミミに対して淫らな欲望を持っている男は、他の男たちの欲望を許せず、過度に防衛的になる。

 僕自身はこの映画を観て、オーストラリア映画『クワイエット・ルーム』を思い出していました。子供の視点からの映像、特徴的な色彩感覚、とてつもなく不幸な境遇など、共通する項目は『カルネ』より多いように思います。ただし映画としては、『クワイエット・ルーム』の方が何十倍も優れている。僕は『ミミ』を観て、主人公の少女に同情はするし、こういう境遇の少女が世界中に何万人もいるであろうことは理解できるのですが、それが第三者に広く観せる映画として仕上がっているかというと、『ミミ』はまだまだ即物的すぎて芸がないと思う。これじゃ新聞の三面記事を読んでいるのと変わりません。『クワイエット・ルーム』には、「不幸な少女の物語」を超えたものがあるもんね。

(原題:MIMI)



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