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1998/01/30 TCC試写室
特別ひどい映画になっていないのは、監督にやる気がないせい?
声優・國府田マリ子の映画主演デビュー作。by K. Hattori



 監督の鶴巻日出雄は大仁田厚主演の『ソクラテス』でデビューした人だが、2作目の本作も前作同様、凡庸で退屈な映画になっている。ストーリー展開やキャスティングに難があるのは問題だが、演出に何の創意も工夫も見られないのには困った。いったい監督は、この映画の演出ポイントを、どこに設定しているのだろうか。自分でもっとも面白いと思っているのは、映画のどこなんだろうか。この映画の、見どころや見せ場はどこなのか。それが定まらないまま、ただ漫然とストーリーを追っているだけ。もし監督に描きたい“何か”があるのなら、その部分を中心にして物語を構成し直すなど、この映画をもっと面白くする方法はあっただろう。だがそうした意欲がまったく感じられないため、この映画の印象はどこまでも薄ぼんやりとしたものになってしまう。

 売れないロックシンガー、奈津子のもとに、母が入院したという知らせが届く。病名は子宮ガンで、余命は半年だという。母の最後の願いは、20年前に出ていったきり音信不通の夫にひとめ会うことだ。奈津子は父の消息を探して、旅に出ることになる。父の元勤務先や住所を訪ね歩くうちに、父が母以外の女性に生ませた腹違いの弟と出会ってショックを受ける奈津子。しかも父は行く先々で不義理を重ね、人相の悪い男たちに襲われて大ケガをしたこともあるとか……。いったい、奈津子の父は何者なのか。はたして母が死ぬ前に、父を病院に連れて行くことが出来るのだろうか。

 主演の國府田マリ子は声優として人気のあるタレントらしいが、映画出演はこれが初めてのデビュー作。僕の率直な感想を言わせてもらえれば、そもそもこのキャスティングが大問題だろうと思う。彼女は不良ぶったロックシンガーとしては声にパンチがないし、細く可愛らしい声で母親に反抗したり怒鳴ったりしても、まったく迫力が感じられない。この映画の主人公としては、まったく力不足だと思う。映画の冒頭で、バンドのプロデビューを手助けしようとするプロデューサーに不満げだったり、道で出会った女子高生とケンカしたりする場面でも、僕はまったく彼女に同情できなかった。物語の導入部分で観客の共感をよべない主人公では、その後のどんな場面になっても観客は感情移入できなくなってしまう。

 人物の配置や性格付けにスッキリしないところがあり、物語が真っ直ぐ立っていない感じがする。奈津子のバンドメンバー、結婚して子供もいる姉、ガンでしかもボケかけている母、腹違いの弟、父にゆかりのある人々、父親本人。それぞれの人物たちが、主人公・奈津子にどんな働きかけをして、それが奈津子をどう変えて行くのか、まったく整理されていない。『ソクラテス』は主役のパワーである程度物語を引っ張れたが、この映画にそれほどのパワーはない。そこが物語の弱さにつながる。

 技術的なことだが、全体に録音が悪く、バンド演奏シーンにまったく躍動感や迫力がないので興ざめする。冒頭からヘナヘナの音では白けてしまうよ。


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