ライアー

1998/02/05 徳間ホール
娼婦殺しの犯人は誰だ? 容疑者と刑事たちの息詰まる駆け引き。
最後まで犯人がわからない極上のミステリー。by K. Hattori



 最後の最後まで殺人事件の犯人がわからない、最高のサスペンス・ミステリー。なんと僕は、映画がすべて終わった後も、犯人が誰なのかわからなかった。それでいて、釈然としない不快感や、取り残されてしまった焦燥感というものが残らない不思議な映画です。ぜんぜんわからなくても、映画を観終わった後の満足感は、それなりにあったりする。芝居がねっとりと濃厚だし、物語の筋もかなり入り組んでいるので、映画が終わるともう満腹なのですね。犯人が誰なのか気になったので、同じ試写に来ていた知人に「わかった?」と聞いたら「わからない」と言われてしまった。こうなると、最後までわからなかったのは僕のせいじゃないみたい。犯人探しのミステリーとしては脚本にだいぶ問題がありそうですが、芝居の演出には文句がない。かわった映画です。

 娼婦殺害の容疑で、ウェイランドという男が取調室に呼ばれてきます。物証はほとんどない事件。取調べ中の態度に不信な点があったため、ポリグラフを使ってもう一度容疑者を調べようというわけです。捜査官のひとりはベテランのケネソウ刑事、もうひとりは警備員上がりのブラクストン刑事です。ウェイランドはポリグラフ検査に反抗的で、なかなか結果が出ないことに刑事たちはいら立ちます。ウェイランドにはTLEという、てんかん発作の持病があり、発作を抑える薬を常用していることから、ポリグラフには正確な反応が出ない。しかも取調べ中に、ウェイランドがTLEの発作を起こす事態まで発生する。嫌疑濃厚な容疑者だが、物証がないまま捜査は暗礁に乗り上げたかに見えたのだが、やがて自体は予想外の方向に転がり始める。

 容疑者ウェイランドを演じたのはティム・ロス。ブラクストン刑事役はクリス・ペン。ケネソウ刑事役はマイケル・ルーカー。主要登場人物はほぼこの3人に限定されています。中心になるのは取調室ですが、ケネソウ刑事の家庭の様子や、殺された娼婦のエピソードが、物語に巧みに挿入されています。殺された娼婦役はレネー・ゼルウィガー。(『ザ・エージェント』のヒロイン役の時は、レニー・ゼルウィガーという表記だった。人命表記は常に揺れてます。)ケネソウの妻を演じるのはロザンナ・アークエット。『この森で、天使はバスを降りた』のエレン・バースティンも、重要な役で登場します。結構豪華なキャストですよね。

 タイトルは「嘘つき」という意味で、重要な小道具はポリグラフ(嘘発見器)。人間は常に嘘をつきながら生活し、嘘がまた新たな嘘を招く。映画の中では、登場人物の証言、現実、幻覚などが、まったく同じ比重でカットバックされてくる。一体全体、どれが本当の話なのか、観ている者にはまったくわからなくなります。

 監督・脚本は、ジョナス・ペイトとジョシュ・ペイトの「ペイト兄弟」。『バウンド』のウォシャウスキー兄弟など、最近兄弟監督が多いですね。これが監督としては2作目になるそうです。
(原題:Deceiver)



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