ソルジャー・ドッグス

1998/02/06 シネカノン試写室
『フェイス/オフ』のジョン・ウー監督が15年前に撮ったアクション映画。
名人も昔はヘタクソだったことに、ちょっと安心。by K. Hattori



 最新作『フェイス/オフ』がアメリカでも大ヒットし、香港出身監督としては最大の成功を収めたジョン・ウーが、『男たちの挽歌』シリーズ以前、今から15年前に撮った幻の映画。タイ、ビルマ、カンボジアの3国に接する、黄金の三角地帯と呼ばれる世界的な麻薬供給源。そこに「麻薬帝国」を築いた将軍を誘拐するため、タイ政府に雇われた中国人傭兵たちの戦いを描いている。はっきり言って、映画としてはぜんぜん駄目だと思う。残酷だし、一本調子だし、暗い。当初製作していたゴールデン・ハーベスト社が、完成した映画をお蔵入りしてしまったのも無理はないと思うし、『男たちの挽歌』が当たった際に慌てて公開したものの、客が入らず7日で終了したという話もわかるような気がする。

 この手のストーリー展開だと、映画の前半で登場する傭兵たちの紹介を一通りこなし、作戦内容と危険性を観客に見せておいて、終盤の将軍誘拐シーンをクライマックスに持ってくるのが普通でしょう。ところがこの映画では、物語の背景といきさつを冒頭にナレーションで紹介し、映画が始まるとすぐに将軍誘拐シーンになってしまう。作戦は見事成功。ところが、将軍を生かしたまま国境までたどり着くのが一苦労なのです。この映画は、追跡してくる将軍一派、小競り合いが原因で傭兵たちを執拗に狙うベトナム人将校、彼らが雇った少数民族の殺し屋たちから、傭兵たちがいかにして逃げ延びるかで物語を組み立てている。

 はっきり言って、粗雑な映画です。物語には強引なところや無理なところ、破綻しているところ、矛盾点などが無数にあり、気になってしかたがない。傭兵たちが次々に死んで行くのは構わないけど、本来なら生き延びなければならない人まで殺してしまうから、後味はすごく悪い。例えば、傭兵たちは乱暴されているフランス人女性記者を助けたことで、ベトナム人将校に追われることになるのですが、こうした場合、助けられた人は最後まで生き延びなければ、助けた甲斐がないではないか。面白そうなエピソードや人物が出てきても、あっという間に全員殺してしまうから、エピソードが束ねられて太い物語になることがない。

 この映画の見どころは、全編に雨のように降り注ぐ銃弾の数と、飛び散る血糊の量です。おそらくこの映画を撮った頃のジョン・ウーに最も近いのは、現在のジョン・ウーではなく、日本の小沢仁志だと思う。この映画に一番近い映画は『殺し屋&嘘つき娘』でしょうね。僕は『殺し屋&嘘つき娘』を観て「小沢仁志って駄目だなぁ」と思いましたが、今回この『ソルジャー・ドッグス』を観て少し意見を変えた。ジョン・ウーだって15年前には小沢仁志と同じことをやっていたんだから、小沢監督だって15年後にはジョン・ウー並みの世界的監督にならないとは限らないぞ。ジョン・ウーはこの作品を撮った後、しばらく干されたらしい。小沢仁志も負けずにがんばって、ジョン・ウーを目指そうぜ!

(原題:英雄無涙 HEROES SHED NO TEARS)



ホームページ
ホームページへ