ディアボロス
悪魔の扉

1998/02/16 よみうりホール
(完成披露試写会)
現代の悪魔はニューヨークで弁護士事務所を開いているらしい。
アル・パチーノの役作りが素晴らしすぎる! by K. Hattori



 原題は『The Devil's Advocate』で、直訳すれば「悪魔の代弁者」といった意味。現代社会でもっとも悪魔に近いのは悪党を救ってのさばらせておく弁護士であり、法律こそが悪魔の聖典だというのが、この映画のひとつのテーマになっている。邦題の『ディアボロス』というのは、イタリア語で「悪魔」の意味。本当は『デビル』というタイトルにしたかったんでしょうが、昨年同題の映画が封切られているので、それはできなかったのでしょう。ちなみに『デビル』の原題は『The Devil's Own』で、直訳すると「悪魔の子」にでもなるのかなぁ。

 フロリダの法廷で連戦連勝中の若手弁護士ケヴィン・ローマックスは、ニューヨークの一流弁護士事務所に高待遇で引き抜かれる。法曹界で絶大な権力を持つ事務所のオーナーであるミルトンは、若いケヴィンに次々と大きな事件を任せるようになるが、慣れないニューヨーク暮らしでケヴィンの妻はノイローゼ気味。プライベートな時間は仕事に消え、夫婦は破局寸前にまで追い込まれる。このあたりの展開は、トム・クルーズ主演の弁護士ドラマ『ザ・ファーム/法律事務所』にも似た雰囲気があります。この映画は文字どおり「悪魔」をテーマにした映画であるにも関わらず、一見すると法廷映画や弁護士の映画に見えてしまうところが面白い。

 ケヴィンを演じたキアヌ・リーブスが、久しぶりにきりりと締った男っぽさを見せてます。最近少し低迷していただけに、この復活は嬉しい。次回作は『バウンド』のウォシャウスキー兄弟が撮るSF大作『マトリックス』だそうですから、そっちも楽しみです。しかし、そんなキアヌのがんばりを吹き飛ばすのが、ベテラン俳優アル・パチーノの名演技。昨年の『フェイク』でも、中年チンピラヤクザの悲哀を演じて大いに泣かせてくれましたが、今度の役もパチーノ以外には考えられないような素晴らしさ。観ていてほれぼれとします。

 彼が演じているミルトンという男は、人間を誘惑し、破滅させる悪魔です。しかしその人あたりはじつに柔らかく、優雅で優しく、しかも抜群のユーモアもある。職場のボスとしては、部下のひとりひとりに目を配り、個性と能力を引き出す名人であり、失点に寛容な包容力もある。はっきり言って、僕はこんなボスの下で働いてみたい。でも、彼は悪魔なのです。キアヌ演ずる主人公は、最後まで彼の誘惑と戦いますが、アル・パチーノの演技があまりにも魅力的なので、「悩んでないでミルトン側についちまえよ!」と声をかけたくなるぐらいでした。

 パチーノの芝居がこんなに素晴らしいものになるとは、監督も予想外のことだったのではあるまいか。映画を観ると、彼が悪魔だということを示すサインがあちこちに出過ぎです。彼の芝居だけで十分に成立すると思われる部分でも、つい説明してしまう場面が多い。特殊メイクの多発などが、その例の最たるものです。監督は『愛と青春の旅立ち』『黙秘』などのテイラー・ハックフォード。この監督にもパチーノは読み切れなかったようです。

(原題:The Devil's Advocate)



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