きずな

1998/03/10 東宝第1試写室
役所広司・渡部謙主演。大感動、男泣きのミステリー・ドラマ。
昨年の『誘拐』より数段できはいいぞ。by K. Hattori



 今年の東宝のラインナップの中で、昨年末から公開されていた『モスラ2』を以外では唯一の自社製作作品。今年の東宝は、外部との提携作品も秋の『愛を乞うひと』しかない。製作からどんどん遠ざかって、東宝も今じゃすっかり貸し小屋業です。昨年がんばって作った『誘拐』が惨澹たる興行成績だったので、どうしたって慎重にならざるを得ないのでしょう。せめてこの『絆/きずな』がある程度ヒットして、昨年の『誘拐』ショックを少しは埋め合わせしてくれるといいんですが……。

 白川道のミステリー小説「海は涸いていた」を原作に、昨年『身も心も』で監督デビューしているベテラン脚本家・荒井晴彦が脚本を書き、根岸吉太郎が監督。主人公のやくざを演じるのは、『失楽園』と『うなぎ』『CURE/キュア』で昨年の映画賞を総なめにした役所広司。彼と対決する刑事役に渡部謙。その他、麻生祐未、中村嘉葎雄、津川雅彦、ベンガル、田中健、夏八木勲、加藤治子など、豪華なキャスト。伊丹監督の息子・池内万作も、渡部謙の同僚刑事役で出演している。バイオリニスト川井郁子が女優として出演しているのも、話題になるかもしれない。演技は下手ですが、演奏家という彼女の特技を生かした役柄になっています。

 子供の頃に育まれた人と人との「絆」を守るために、自分の身を犠牲にしようとする男たちの物語です。彼らが守ろうとしたものが何なのかがミステリーの鍵なので、ここには書けませんが、僕はこの映画を観ていて『砂の器』を思い出してしまった。クラシックの演奏会で主人公たちの過去をフラッシュバックさせるあたりは、『砂の器』そのものです。過去の事件が現代の事件を生むという発想も『砂の器』と似ている。ただしこの映画の主人公たちは、「過去を捨てるため」に苦しんでいるわけではない。むしろ「過去を守る」ために苦しんでいる。そこが『砂の器』との決定的な違いだと思う。僕はこの場面で、ボロボロ涙をこぼして泣いてしまいました。演奏会シーンは、この映画最大のクライマックスでしょう。

 この映画が描いているテーマは、個人の努力や偶然や幸運によってもたらされたかに見える「幸福」は、目に見えないところで、その「幸福」を願って自ら犠牲になった人々に支えられているのかもしれませんよ……、というものだと思う。だから映画は、決定的なクライマックスとなる焼津港では終わらず、その後の結婚式シーンで終わっている。これは物語の流れからすれば必ずしも必要なエピソードではないが、テーマに照らし合わせると絶対に必要なエピソードだったのだろう。

 僕はこの映画で合計3回ぐらい泣いてしまいました。段取り通りのクサイ芝居もあるんだけど、やっぱり泣いちゃうんだからしょうがない。脇役が豪華すぎて全体にゴツゴツした印象が残るし、主役ふたりに物語が収束して行かない難はありますが、それを上回る濃厚な芝居の密度に大満足。男の映画なので女性客主体の現在の興行では苦戦するかもしれないけど、僕はオススメです。


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