スフィア

1998/03/17 パンテオン(試写会)
マイケル・クライトンの原作をバリー・レビンソンが映画化。
中身は『海底2万マイル』だなぁ……。by K. Hattori



 マイケル・クライトンの原作を、『スリーパーズ』のバリー・レビンソンが映画化。太平洋の海底に300年前から沈んでいる巨大な宇宙船が発見された。内部探査のため、心理学者、数学者、動物学者、宇宙物理学者からなる特別チームが編成される。物語の主人公は、ダスティン・ホフマン扮する心理学者ノーマン、シャロン・ストーン扮する生物学者ベス、サミュエル・L・ジャクソン扮する数学者ハリーの3人。海底基地の中で他のスタッフは次々と退場し、残った3人が狭い密室の中で相互に不信感を募らせ、疑心暗鬼に駆られて行きます。

 300年前の宇宙船というアイデアは面白いと思いますが、それ以外の道具立に新しさはありません。基本的にこれは、ジュール・ヴェルヌ原作のディズニー映画『海底2万マイル』と、古典的SF映画『禁断の惑星』を掛け合わせたものです。特に『海底2万マイル』の影響は強い。僕は少年時代にヴェルヌの原作を何度も読んだクチですから、この映画の開始早々「これは『海底2万マイル』だ!」と気付いてしまった。潜水服を使った海底散歩のビジュアルが、まったく同じなのです。こうなると、海底基地を襲う巨大イカも、基地外壁の電流装置も、最後の脱出艇も、全部が全部『海底2万マイル』からの引用だということがわかります。加えて『禁断の惑星』からの影響も大。主人公たちを襲う怪現象は、すべて「イドの怪物」だったというわけです。

 宇宙人との接触チームに、一見宇宙と関係のない専門家チームを使うというアイデアは、『ジュラシック・パーク』で恐竜に最初に出会うメンバーの中に、数学者がいたのと同じ発想でしょう。これも特に目新しいものではない。ユニークなのは、このチーム編成のアイデアをレポートにまとめたのが心理学者のノーマンで、彼は報酬目当てにデタラメなレポートを作っていたという部分。もっともこのエピソードは、映画の中であまり生きてこない。この映画はこれに限らず、「生きてこないエピソード」が多すぎる。もっと整理すればいいのに。

 序盤は宇宙人とのファーストコンタクトがテーマ。その次は、宇宙船やその中で見つかった球体が、どこから来たのかという謎解き。その次は、スタッフが次々と死に、基地の中が火災を起こすというパニック。終盤になって主役3人の疑心暗鬼がはじまり、最後は「願ったことは必ずかなう」という楽天的なハッピーエンディング。どうもテーマが絞り切れてない感じがする。サスペンスならサスペンス、パニックならパニックで序盤から終盤まで押し通し、最後に別の地点に着陸させるのが常道だと思うのだが、この映画はいろいろやろうとして、すべてが中途半端になっているような気がする。

 最後までそこそも飽きずに観られたが、最後の脱出シーンあたりから「早く終わらないかな……」という気分になってきてしまった。先が読めるというより、「先がどうなろうと知ったことか」という気分なんですが、これは平たく言うと「白けかえってた」って意味です。

(原題:SPHERE)



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