食神

1998/03/24 中野武蔵野ホール
香港の喜劇王チャウ・シンチー主演の料理勝負もの。
料理を食ったリアクションがすごい!by K. Hattori



 昨年観る機会に恵まれず、ずっと残念に思っていたチャウ・シンチーの『食神』を、やっと観ることができた。同時上映の『マッド・モンク』は以前にも観たことがあるのでパスしてしまいましたが、『食神』だけでも普通の映画5本分ぐらい笑えました。

 今回彼が演じるのは、香港の料理界に君臨する「食神」と呼ばれる天才シェフ。その正体はマスコミと大手食品会社が作った虚像なのですが、本人はすっかり大物ぶって、周囲の人たちをあごでこき使う。序盤で見せる食神のサディストぶりは、いつものチャウ・シンチー映画のそれをさらに理不尽にしたもので、ギャグとしてはぎりぎりのところまで来てると思いました。弟子入り志願の若い料理人に、「そこでウンコしろ!」と命じるあたりは狂ってます。狂っているけど、それに付き合う方も狂ってる。絶対的な権力に酔いしれている主人公が、このままで済むはずはない。

 彼の横暴ぶりに業を煮やした黒幕の食品会社社長は、食神の虚像を暴き、新たに自分の言いなりになる新たな食神をマスコミに登場させることにする。地位を追われた元食神は、一文無しで下町の屋台街にたどり着き、チンピラたちにズタボロにされてしまう。それを助けたのは、屋台の女主人カレンだった。演じているのはカレン・モク。この映画で一番すごいのは、アイドル女優のカレン・モクを特殊メイクで「すごいブス」に仕立て、それで全編を通してしまうこと。しかも、彼女がブスである点をギャグにしている場面が多い。さらに、それがじつにオカシイ。よくこんな役を引き受けたよなぁ……。

 中身は日本のマンガでもよくある「料理勝負もの」です。同じジャンルの香港映画だと、『金玉満堂/決戦!炎の料理人』という傑作がありましたが、この『食神』はそれをはるかにしのぐ大傑作! 『金玉満堂』のノリが「包丁人味平」だとすれば、『食神』は「ミスター味っ子」だね。料理を食べた人のリアクションが、すごくオーバーなリアクションで描かれて、それがこの映画最大のギャグになってます。主人公の作った「小便団子」を、敵対するチンピラのボスが一口食べた瞬間、いきなりイメージシーンになって、ボスがひらひらの衣装で夕暮れの海岸を走り出したのはすごかった。そしてクライマックスには、さらに大げさなで感動的なリアクションが待ち構えているのです。思い出しても笑っちゃう。

 傲慢な主人公がどん底に落ち、そこから這い上がってくる過程で人間的に成長するという、ありふれたストーリー展開。ありふれた定番ストーリーは、アイデアを盛り込む器としては無限の大きさを持っている。しかもこの映画では、冒頭が屋台の場面から始まり、そこから回想シーンになるという、気取った構成にもなっている。この「ひと工夫」が映画のスパイスになってます。

 主人公が最後に神様になってしまうという展開は、『マッド・モンク』なんかと同じ。これって、チャウ・シンチーの映画ではお約束なのかな……。面白いね。

(原題:食神)



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