ボスニア

1998/04/09 シネセゾン試写室
トンネルに閉じ込められたセルビア人兵士たちの運命は?
旧ユーゴ内戦の悲劇を描くセルビア映画。by K. Hattori



 旧ユーゴの民族紛争を、ひとりのセルビア人青年の目から描いた、戦争と平和についての物語。映画は戦争が起こったその日から始まるが、戦争は全国で同日同時刻にヨーイドンで始まるわけではない。戦争初日、のどかな風景の広がる村で、「どうやら戦争になっているらしいよ」「本当かな」「信じられないよね、ワハハ」なんて話を、幼なじみのセルビア人ミランと、ムスリムのハリルがしている。だが戦争は、好むと好まざるとに関わらず、勝手に向こうからやってくる。同じ村に仲良く暮らしていたセルビア人とムスリムは引き裂かれ、敵味方に分かれて互いに殺し合いを始めるのです。

 旧ユーゴの分裂と民族紛争については、僕自身まったく不案内で、何がなんだかよくわかっていない。よくわかっていないものの、紛争が一段落したあたりから、紛争をテーマにした映画が続々と日本に入ってきた。おそらく『アンダーグラウンド』あたりが先べんをつけたのでしょう。今年は『パーフェクト・サークル』があり、この『ボスニア』がある。しかし、この『ボスニア』というタイトルは即物的すぎて、あまりよいタイトルではないと思う。僕は最初、ボスニア紛争を扱ったドキュメンタリー映画か何かだと思いました。原題の『Lepa Sela, Lepo Gore』は、「美しい村、美しい炎」という意味だそうです。セルビア人兵士が村を焼く。その時、「美しい村は美しく燃える。醜い村は醜く燃える」と得意げに解説するのです。その台詞から取られている。

 セルビア人ミランのいる小隊は、敵の奇襲を受けて命からがら小さなトンネルの中に逃げ込みます。しかしトンネルの出入口を敵に取り囲まれ、逃げ出すことができなくなってしまう。味方の救援は来ない。武器弾薬が残っているので、敵もうかつには中に入ってこようとしない。食料と水がほとんどないまま、ミランたちは明日の見えない篭城をはじめるのです。彼らがトンネルの中からどうやって脱出するかが、この映画を流れる大きな物語になります。でも映画の中には、病院で重態の身体を横たえるミランの姿も描かれているため、この篭城が最終的には悲惨な最後を迎えることが予期できる。

 映画はかなり複雑な構成になっています。トンネルの攻防を主軸に、病院のミラン、ミランとハレルの少年時代の思い出、平和だった頃の村の様子、トンネルに閉じ込められた兵士たちの過去のエピソードなどが、次々とカットバックで描かれます。それぞれの場面での人物の関係がすぐに理解できないと、物語から置いていかれそう。僕は入院中の兵士がミランだとすぐには気づかなかったので、物語の前半は状況を飲み込むのにかなり苦労しました。中盤以降は大丈夫でしたけど……。

 時折入る過去の映画からの引用に、映画ファンならニヤリとするでしょう。例えばラスト近くで、「Let's Go」「Why not」という会話が出てくれば、これは『ワイルドバンチ』の死の行進だなとすぐわかり、登場人物たちの心情も理解できるというわけです。

(原題:Lepa Sela, Lepo Gore)



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