不夜城

1998/04/21 東映第1試写室
馳星周の同名小説を香港映画界から招かれた李志毅が映画化。
美術などに見る点は多いが、話はどうか……。by K. Hattori



 紛れもない日本映画でありながら、主演は金城武、監督は『月夜の願い』『世界の涯てに』の李志毅(リー・チーガイ)という話題作。原作は馳星周のベストセラー小説。新宿歌舞伎町にうごめく中国系マフィアの対立抗争を、台湾人と日本人の混血である主人公・劉健一の視点から描き出す。キャストには香港映画でおなじみの顔が多数出演しているので、香港映画ファンには楽しい映画だと思う。この映画はアスミック・エースの最初の作品であり、日本映画界が外国人監督を招いて映画を製作するという珍しい試みの第一歩でもある。ハリウッドが外国人監督を多数登用して現在の隆盛を築き上げたことを考えると、日本でも今後、アジア件から積極的に人材を受け入れることが求められて行くと思う。

 いろいろと意欲的なことをしている映画なので、僕としてはこの映画にそこそこヒットしてもらいたいところなのですが、映画の出来そのものはあまりよくないというのが正直な印象。登場人物が互いに相手を裏切り合うというお決まりのストーリーですが、登場人物が多すぎて、誰が誰の仲間で、誰が誰を裏切り、誰がどんな野心を持って、誰が何をしようとしているのか、じっくり考えながら観ないと物語に置いていかれてしまう。主人公を中心に、謎の女・夏美と、組織から追われている富春の三角関係を、まずはがっちりと固めてほしかった。若い3人の愛憎劇の上に、中国マフィア幹部たちの抗争を積み重ねた二重構造にすれば、この映画はもっとシンプルで力強いものに仕上がったと思う。マフィア側は人物の数を減らしたり、同じグループに属している人間同士をツーショットに収めるなどの工夫が必要だ。例えばこの映画では、上海マフィアのボス・元成貴と、その用心棒・孫淳のツーショットがない。これでは最後のクーデター騒ぎも、一体何が起こったのかわからない。

 この映画は、ヒロイン夏美役の山本未来に魅力がないのが致命的。「謎の女」というキャラクターには、謎めいた中にも明確な輪郭が必要だと思うのだが、この映画の夏美は、全体の印象がボンヤリしているだけだ。この役は、表面に見えている顔の裏に別の顔があり、その裏にさらに別の顔が見えてくるという複雑なキャラクターではあるが、その時その時に表面に見える表情がはっきりしていないので、下から別の顔が見えてきた時のショックがない。全部が同じ、曖昧模糊としたキャラクターなのだ。曖昧なキャラクターがどんな突飛な行動を起こそうと、観客はまったく驚かない。「この人物はこんな性格」という予断を、観客が持っていないからだ。

 主役の金城武もボンヤリした印象だ。そういえば、この役者はウォン・カーウァイ監督の映画の中でも、やっぱりボンヤリした役を演じていた。あれは役作りの結果ではなく、本人の持ち味なのですね。金城武にこの映画のようなハードな役が似合うのかどうか、僕には疑問に思えます。彼の流暢ではあるが少し平板な日本語が、この映画全体を平板な印象にしてしまったと思う。


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