ポストモーテム
死への彩り

1998/04/28 GAGA試写室
チャーリー・シーン主演の本格的サイコ・サスペンス。
舞台をイギリスにしたのがミソ。by K. Hattori



 自称「黒澤明の弟子」アルバート・F・ピュンの最新作。実際、『デルス・ウザーラ』のスタッフだったらしい。ハワイ生まれの中国系アメリカ人。日本でテレビの仕事をしている時に、三船敏郎の口利きで黒澤組にもぐりこんだのだそうです。'82年に『マジック・クエスト/魔界の剣』でデビュー以来、B級路線まっしぐら。猛烈な多作で、デビュー15年で30本近い映画を撮っている。日本では作品の大部分がダイレクトビデオ発売という、いってみれば「そういう監督」です。ちなみに僕はこの監督の作品を観るのは、今回初めてでした。

 映画秘宝「エド・ウッドとサイテー映画の世界」によれば、アルバート・ピュン監督の特徴は『卑怯なヒーローとクソ真面目な悪役、そしてバカな設定の三つ』だそうですが、この『ポストモーテム』は比較的まともなサイコサスペンスになってます。脚本が監督本人ではないので、本来の持ち味とは別のところに焦点があたっているのかもしれません。主演はチャーリー・シーン。アメリカ人の元刑事が、イギリスで発生した連続殺人事件の捜査に協力するという物語です。舞台はイギリス北部のスコットランド。ダニー・ボイルの映画でおなじみの、今もっともトレンディーな場所です。出演している俳優たちも、シーンを除けばほとんどがイギリス人俳優。

 この映画の舞台がイギリスでなければならない合理的必然性はほとんどないし、イギリスでアメリカ人の元刑事が合同捜査をする必然性もほとんどない。これはアメリカでも大ブームとなっているイギリス映画に目をつけて、アメリカ人俳優を使ってイギリス映画を作ってしまおうという試みではなかろうか。映画の背後には、そうした下心が少し見えるような気がした。しかし、映画はなかなかよくできていて、見ごたえタップリでした。

 主人公ジェイムズ・マクレガーは、多くの連続殺人事件や猟奇犯罪の捜査の中で、独自のプロファイリング技術を身につけた男です。彼はあまりにも犯人に感情移入するストレスから逃れるため退職し、刑事時代の思い出から逃れるためにアルコールに溺れて行く。しかし彼の暮らす家の裏庭に、1体の女の死体が放置されたことから、彼は再び事件捜査の現場に巻き込まれて行く。死体には完璧な防腐処理が施され、事件の直前には、マクレガー宅のファックスに、被害者の死亡広告が送られていたのだ。やがて第2の死亡広告が送られてくる……。

 チャーリー・シーンがかなりがんばって主人公のキャラクターを作り出しているのですが、犯罪捜査のベテランという意味では、もう少し年配の俳優がマクレガーを演じたほうがよかったと思う。サスペンス演出として、「ゴゴゴゴゴ」という低い音をボリュームいっぱいに響かせる手法が何度も使われているが、これは最後のここ一番という時だけに使ったほうが効果的だったと思う。最後のほうは慣れてきちゃって、ショックを感じないのです。葬儀屋に勤める女性を主人公にした『キスト』を観たばかりなので、この映画が余計に面白く感じました。

(原題:POSTMORTEM)



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