暗黒街
若き英雄(ヒーロー)伝説

1998/05/22 GAGA試写室
金城武主演の香港版『スカーフェイス』か『嵐を呼ぶ男』。
アクションシーンがすごい迫力! by K. Hattori


 19世紀末から今世紀初頭の上海を舞台に、田舎から出てきた青年マー・ウィンジン(馬永貞)が、わずかな時間のうちにギャングの若きボスとしてのし上がって行く様子を描いた作品。1972年にチャン・チェ監督によって作られた『馬永貞』の再映画化で、主人公マー・ウィンジンは実在の人物をモデルにしているという話だ。言ってみればこれは、映画『スカーフェイス』の香港版みたいな作品です。外国からの移民が暗黒街の帝王にのし上がるというストーリー展開と、実話がベースのフィクションという点、そして再映画化だという点なども、この映画と『スカーフェイス』の共通点。『スカーフェイス』は往年のギャング映画『暗黒街の顔役』のリメイクだし、もともとのモデルは実在のギャング、アル・カポネだし。邦題が『暗黒街』になっているのは、日本の配給元でそのあたりを意識したのかな……。

 主演は金城武、共演はユン・ピョウ。主人公をとりまく対照的なふたりの女性に、ヴァレリー・チョウとスアン・ジェシカ・ヘスター。この映画が『スカーフェイス』と決定的に違うのは、主人公が破滅の道から逃れてハッピーエンドに終わるという点。これは、アル・パチーノと金城武のキャラクターの違いです。この映画の主人公は、基本的にすごく陽性。太陽のように明るくて、暗いところがない。基本的にこれは、金城武という俳優を使ったアイドル映画という側面があるのでしょう。そう考えると、この映画は近藤真彦版『嵐を呼ぶ男』のようにも見えてくる。唐突に挿入されるドラム合戦も、『嵐を呼ぶ男』だと思うと納得だ。(ちなみに『嵐を呼ぶ男』の井上梅次監督が、一時期香港で映画を撮っていたのは有名な話。香港のスタッフが『嵐を呼ぶ男』を観ていたとしても、ちっとも不思議ではないのだ。)

 ユン・ピョウが共演していることでわかるとおり、この映画は壮絶なアクションシーンが見せ場の活劇映画。金城武とユン・ピョウが馬車の上で格闘する場面、クラブでの大乱闘、手斧を持った敵とユン・ピョウの対決、金城武が数十人の敵と戦う大立ち回り、そして最後の大銃撃戦と、見せ場は多い。金城武は全アクションの3割ぐらいしか自分でやっていないと思うけど、香港映画は役者とスタントの切り替えや、編集のつなぎが本当に上手い。スタントマンを使っての撮影が、まったく気になりません。このあたりを、日本映画は盗んでほしい。

 手斧を使った対決シーンは、チャンバラファンには答えられない殺陣。手斧に鎖を付けた、「鎖鎌」ならぬ「鎖斧」が登場するあたりは、たぶん日本の時代劇映画からの影響だと思う。最後の方には『子連れ狼』みたいな仕掛けも登場して、僕は喜びのあまり笑ってしまった。香港の映画スタッフの素晴らしいところは、相手が日本映画だろうがハリウッド映画だろうが、面白いところは全部吸収してしまうところ。このバイタリティがある限り、香港映画は当分大丈夫でしょう。この映画からは、「香港映画健在なり」というメッセージが聞こえます。

(原題:馬永貞/HERO)


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