タクシー

1998/06/04 有楽町朝日ホール
大馬鹿監督リュック・ベッソンが製作・脚本を担当した馬鹿映画。
フランスではヒットしたらしい。勝てば官軍。by K. Hattori


 『フィフス・エレメント』で小学生並みの知能程度を堂々と披露し、世界中の心ある映画ファンから拍手喝采を受けたリュック・ベッソン監督が、まともや作ったバカな映画です。今回彼は製作と脚本を担当しただけですが、その脚本のバカさ加減はますます幼稚化傾向を強めています。『フィフス・エレメント』には一応ストーリーらしきものがあったけど、『タクシー』にはそれが一切ない。あるのは「チューンナップしたタクシーに乗った運転手と警官が、銀行強盗たちと猛スピードのカーチェイスをする」というアイデアのみ。普通なら、これにもう少し肉付けして、ストーリーやテーマらしきものをでっち上げるのですが、この映画にはそれがまるでない。あるのは「カーチェイス」というアイデアだけなので、その場面は確かに見どころになっているのですが、他のシーンになるとまるっきり退屈で観てられません。

 見どころのカーチェイスも、確かに猛スピードで車が走っているのはわかるのですが、見せ方に工夫らしきものがないのでスピードが感じられない。時速250キロのつばぜり合いが売りでも、高速道路で250キロ出したって面白くも何ともないよ。むしろ狭い路地の中を時速60キロで走った方が迫力があることは、アメリカ映画のカーチェイスを観ていればすくわかることです。車のシーンで面白かったのは、終盤のカーチェイスより、空港に向かう客を乗せたタクシーが町の中を猛スピードで走り抜けて行く場面です。前半にこんな面白い場面があるのだから、後半はさぞ面白かろうと期待させておいて、このでき程度におさまっているのは悲しいぞ。

 アクションが売りの映画において、ストーリーはアクションを成立させるための道具にすぎません。ですから、そんなに馬鹿な設定だろうと、現実から遊離していようと、映画ファンはそれらをすべて許す。でもこの映画はアクションが物足りないので、どうしてもストーリーが気になっちゃうんだよね。例えば、銀行襲撃グループ「メルセデス」が繰り返し犯行予告をしているのに、それに対していつも効果的な対策を講じられない警察は、あまりにも無力で馬鹿すぎます。

 普通は襲撃犯が銀行を襲う前に警察が取り囲めばいいことだし、もう少しリスクを払うのであれば、銀行に犯人たちが入り込んだ後で、出入り口をすべて閉めて犯人を閉じ込めればいい。何月何日にどこの銀行を襲うかまでわかっているのだから、行員や客の中に覆面警官を大量に投入しておくことも必須でしょう。一番は、銀行の窓口嬢を全員婦人警官に差し替え、カウンターの奥にいる男子店員たちも半数まで刑事にすること。金庫室の中にも刑事たちを配置させておけば完璧です。にも関わらず、映画の中の警察にはそうした発想がまるでない。彼らは犯人が一仕事追えて出てきたところで、はじめて追跡を開始するのです。すごく効率が悪いぞ。リュック・ベッソンには脳みそがないのだろうか……。これでは監督や役者たちが気の毒になります。

(原題:TAXi)


ホームページ
ホームページへ