神のみぞ知る

1998/06/12 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
優柔不断な30代男性と3人の女性の恋を描いたコメディ。
それにしても、こんな男がなぜもてる? by K. Hattori


 主人公アルベールは30歳を少しすぎた年齢の録音技師。テレビや映画の撮影現場で録音の仕事をしたり、科学番組やドキュメンタリーのために素材になる音を集めたりするのが仕事。選挙の時期には投票所でボランティアとして働き、各政党の代表者や政治家たちのインタビュー撮影に駆り出されることもある。悩みは頭の毛が薄いこと。性格は優柔不断で、自分でなかなか物事を決断することができない。この映画は、そんな彼が投票所で知り合った3人の女性と付き合い、自分にもっともふさわしい伴侶を見つけるまでの物語です。監督はこれが長編デビュー作となるブリュノ・ポダリデス。監督自身の性格が投影されているという主人公アルベールを演じるのは、監督の弟であるドゥニ・ポダリデス。

 同じ時期に3人の女性と関係を持つという主人公が、僕はうらやましくてしょうがない。年齢も僕とあまり変わらない設定だし、優柔不断なところも共感しました。しかし、なぜこんな男がこうももてるんでしょうか。しかも相手はそれぞれ、タイプの異なったいい女なんだよね。献血車の看護婦、婦人警官、若い映画監督。全員、すごい美人です。この映画で面白いのは、アルベールの態度が相手の女性によってコロコロ変わるところ。看護婦が相手だと純情で真面目な男になり、婦人警官が相手だとセックスに奔放な明るい男になり、映画監督が相手だと理屈っぽい知性派になる。人間の行動なんて、一緒にいる相手次第でいかようにも変わるものです。

 でもこれは、優柔不断なアルベールだからそうなるわけではない。たぶんアルベールと付き合う女性たちも、彼と一緒にいることで、自分の中の特定の部分を引き出しているのです。男女の相性というのは、こうして引き出された性格が、どうからみあって行くかという問題なのかもしれません。誰かと一緒にいることで、自分が優しい人間になったり、逆に意地悪な人間になってしまうことは、実際によくあるもんね。

 相手によって、人間のいろいろな面が引き出されるというテーマは、前日に観た『肉体の学校』でも登場していました。『肉体の学校』のカンタンという人物は、人間の持つ多様さを表現しようとして分裂した性格になっていると思いますが、『神のみぞ知る』のアルベールは、3つの性格がうまくかみ合って、リアルな人物像になっていると思いました。監督が自分自身をモデルにしたと言っているだけに、血肉の通った人物になってます。主人公が最後にどの女性を選ぶのか、あるいは全員を失ってしまうのかは、最後の最後までわかりませんでした。まさに『神のみぞ知る』という感じかな。

 フランスの投票風景というのは初めて見たので興味深かった。テレビで放送している選挙の開票速報も、日本より面白そうです。サッカーの試合を見ながらキスを賭ける場面はちょっとしゃれてるかな。男女が素っ裸で飛行機と管制塔をやるというアイデアは、いったいどこから出てきたんだろう……。いろいろ面白い映画でした。

(原題:DIEU SEUL ME VOIT)


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