夢だと言って

1998/06/13 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
知恵遅れの青年を中心に家族が再生して行く物語。
特殊な素材を使った普遍的ホームドラマ。by K. Hattori


 今年のカンヌ映画祭で<ある視点>部門に出品され、フランスではジャン・ヴィゴ賞も受賞している作品。監督のクロード・ムーリエラスは、これが長編映画3作目にあたるそうです。フランスの片田舎で酪農を営む大家族を描いたホームドラマで、主人公ジュリアンは知恵遅れの青年という設定。こう聞くと「障害者を描いた映画」としてある種の予断を持たれそうですが、これは「障害者と社会のありかた」について描いた「社会派作品」というわけではありません。家族の中で厄介者扱いされていた人間が、いかに家族にとって不可欠な者であるかを再確認し、バラバラだった家族がひとつにまとまるハッピーエンドに誰もが感動することでしょう。主人公ジュリアン役のヴァンサン・デュネリアーズ他、出演者の多くが演技初体験という人たちだそうですが、リハーサルも含めた撮影に2ヵ月をかけ、付け焼き刃でない本当のお芝居に仕上がっています。地味な素材かもしれませんが、そうした点では贅沢な作りの映画なのです。

 主人公ジュリアンは、家族やご近所にとって大きなトラブルを生み出す原因になっています。天真爛漫と言えば聞こえはいいけれど、たびかさなるトラブルに家族は頭を痛め、施設に入れるべきではないかと家族は悩んでいる。彼の「女の子とキスしたい」という欲求が、物語の前半を引っ張って行きます。彼は弟のガールフレンドに一目惚れし、強引にキスを迫るという大事件を起こす。映画を観ている人からすれば、彼の望みはキス止まりであることがわかっていますが、身体の大きい彼にくさむらに押し倒されたほうからすれば、これは「レイプ未遂」ということになる。当然、弟は激怒。家族もいよいよここまでと腹をくくり、ジュリアンを施設に入れようと決意します。ところがここで祖母が衝撃の告白。「ふたりも施設に入れるなんてひどすぎる……」。じつは一家にはジュリアンより前に生まれた重度障害を持つ長男がいて、今でも施設に入院したままだというのです。

 ここから物語は急展開。正直言って僕は前半でやや眠さを感じていたのですが(映画がつまらないのではなく、連日の映画祭通いで疲れているのです)、後半の展開には俄然目が覚めました。お祖母さんと一緒に施設に兄を見舞ったジュリアンは、このままでは自分も施設に入れられることを感じて、兄を連れて施設から脱走します。20年ぶりに、生まれて初めて対面した兄弟のロードムービーが始まるのです。兄は身体のマヒで車椅子ですから、脱走というより、ジュリアンが兄を誘拐したという方が正しいかもしれません……。

 このあと色々あって、最後は無事に大団円を迎えますが、物語の最後の最後までどうなることかとハラハラしっ放し。親切な女性との出会いや、スーパーでの買物(?)シーンなど、楽しい場面もたくさんありますが、それらが「悲劇の前触れ」ではあるまいかと心配してました。これが杞憂におわって本当に良かった。いい映画なので、多くの人に観てもらいたいものです。

(原題:DIS-MOI QUE JE REVE)


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