ルール違反

1998/06/14 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
売れない役者の行き場のない怒りが売れっ子同業者に向けられる。
アイデアは面白いのにエピソードが薄い。by K. Hattori


 映画スターを夢見る売れない役者が、オーディションに失敗して捨て鉢な気分で押し込んだ押し込んだマンションには、憧れの映画スターがずらりと勢揃いしていた。押し込んだ男はフランス人、その恋人はスペインからの出稼ぎ。このアイデアはすごくユニークだと思いましたが、アイデアが未消化なまま、映画は別の方向に進んでいってしまった。同じアイデアから、この映画の3倍も5倍も面白い作品が作れそうなのに、いいアイデアをみすみすつまらない映画にしてしまった失敗例だと思います。監督・脚本は、これが長編3作目のカリム・ドリディ。主人公アンジュを演じたのは、ドリディ監督の常連俳優だというフィリップ・アンブロジーニ。その恋人コンセプションを演じているのは、ペドロ・アルモドバル監督の常連である馬面女優ロシー・デ・パルマ。この映画はフランスでもこの秋からの公開で、観客を前にしての上映は、今回の映画祭が初めてだそうです。

 映画の導入部は悪くないのですが、主人公アンジュがオーディションに失敗し、その後ピストルを持ってオーディションの担当者を脅すシーンがよくわからない。そんなことをしても、オーディションの結果は覆せないことは、彼にもよくわかっているはずです。また、コンセプションの住まいを訪ねたところ、そこがじつは有名な女優の部屋だったというくだりも、一度は引き下がった彼が、次にはピストルを突き付けて部屋に入って行く動機がわからないのです。もう少し主人公のまわりにエピソードをちりばめて、彼の絶望感や怒りを浮き彫りにしておく必要があるのではないでしょうか。また、彼の有名俳優たちに対する憧れと反撥というアンビバレンツな感情も、もう少し掘り下げると面白いエピソードが増やせたと思う。例えば主人公を映画マニアにして、並み居る俳優たちの出演映画を引用させるとか、ミーハーなファン根性が浮かんでは消えるとか……。映画には若干そうした場面がないではありませんが、これを徹底するともっと面白かったと思います。

 俳優たちに対するアンジュの気持ちと、外国人であるコンセプションの気持ちのギャップなども描くべきでしょう。というのも、アンジュが幼い頃から映画が好きで俳優を目指したのに対し、コンセプションは女優の部屋に寄宿することで華やかな生活に憧れ、それが女優になりたいという動機になっているように思われるからです。アンジュとコンセプションとでは、映画に対する思い入れや、俳優に対する思いが違うのです。アンジュにとって、俳優は憧れの対象であり、尊敬すべき人々です。でもコンセプションにとっても俳優は憧れですが、彼女の中にあるのは嫉妬であり、自分を使用人扱いする女主人とその友人たちに対する憎しみでしょう。この映画ではそのあたりが、いまいち表現し切れていない。

 主人公と人質のスター俳優たちの間に、接点がまったくないのが不幸です。本当なら「映画」や「演技」という部分で、もっと共通項があってもいいんだけどね。

(原題:HORS-JEU)


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