イヤー・オブ・ザ・ホース

1998/06/17 徳間ホール
ニール・ヤングと彼のバンド、クレイジー・ホースのコンサート映画。
『デッドマン』のジム・ジャームッシュ監督作品。by K. Hattori


 『デッドマン』でニール・ヤングに音楽を依頼したジム・ジャームッシュ監督は、その後何本かのミュージック・ビデオを、逆にニール・ヤングから依頼されて作っている。この映画はそんなふたりの信頼関係の中から生まれた、ドキュメンタリー色の強いコンサート映画だ。

 ニール・ヤングと彼のバンド、クレイジー・ホースのコンサート場面が映画の半分で、あとの半分は、ヤング自身やバンドメンバー、それに関係者たちのインタビューと、コンサート・ツアーの合間に取られた記録映像などで構成されている。このインタビューと記録映像の部分は、まるっきりアメリカン・ドキュメンタリーの手法を踏襲していて、僕のようにニール・ヤングやクレイジー・ホースに興味がない人にも、それなりに彼らの活動ぶりがわかる仕掛けになっている。もちろん彼らのファンにとっては、バンドの歴史や裏話が聞ける貴重なフィルムとして見逃せないものだろう。

 バンドのメンバーであるフランク・“ポンチョ”・サンペドロが、カメラに向かって「お前さんは俺達に2つか3つの質問をしただけで、バンドの30年に渡る歴史をすべてわかったような気になるのか?」「どんな映画ができるにせよ、それはバンドの真実なんて少しも描けちゃいない。かすりもしないんだ」と毒づきますが、これは半分正解で半分は間違い。この手のドキュメンタリーは、モチーフ本体(この映画なら、ニール・ヤングとクレイジー・ホース)に直接迫るのではなく、周囲の証言や記録映像から、じわじわとモチーフの本質を浮かび上がらせて行くものです。粘土細工のように本体を直接かたち作るのではなく、彫刻のように周囲を少しずつ削って本体を掘り出して行く。

 この手の手法をもっと徹底するなら、関係者の証言をあと2,3人分は用意しなければならないのですが、そこは「半分がドキュメンタリー」なので、せいぜいがマネージャーやヤングの父親、ファンたちの声程度で終わってます。ドキュメンタリーとしては不徹底な部分ですが、この映画の場合はそれで十分だと思う。映画を観る人のほとんどはニール・ヤングのファンだと思うし、そうした観客にとって、「ニール・ヤングとは何者か?」「クレイジー・ホースとはどんなバンドか?」なんて設問は余計なものでしかない。むしろたっぷりと、コンサートの場面を観ていた方がいいのです。

 この映画の特徴は、スーパー8・フィルムを使って撮影した、ザラついた映像の多用。本編にはスーパー8の他にも、一部に16ミリフィルムやVTRの画像が混ざっているが、どれも最終的に35ミリにブローアップして、あえてザラザラのトーンで統一させている。ぼんやりとしたハイコントラスト映像が、演奏シーンの迫力を強調しています。音響の方はドルビー・デジタルなので、音楽ファンにも満足できるはず。この映画はこういう凝ったことをしているので、撮影は気軽にほいほい素材集めができても、編集は大変だったと思います。

(原題:馬年 / YEAR OF THE HORSE)


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