仮面の男

1998/06/19 UIP試写室
デュマの小説を『ブレイブハート』の脚本家が脚色・監督。
ディカプリオは話の上では脇役です。by K. Hattori


 アレクサンドル・デュマの有名な小説「鉄仮面」を、アカデミー賞受賞作『ブレイブハート』の脚本家ランダル・ウォレスが脚色・監督した時代劇。主演は『タイタニック』で世界のアイドルとなったレオナルド・ディカプリオで、今回は若き太陽王ルイ14世と、その双子の弟フィリップをひとり二役で演じている。しかしこの映画はデュマの小説「三銃士」の後日談なので、本当の主人公は、むしろかつての英雄であった初老の銃士たちだろう。彼らが残虐な若きルイ14世に愛想をつかし、幽閉中のフィリップとルイを入れ替えようとする話と、ダルタニアンとアンヌ皇太后の秘めた恋を中心に進められて行く。ルイもフィリップも、いわば脇役です。この映画の見所がディカプリオの二役にあるのは事実ですが、この役をディカプリオが演じたことで、かえって映画としてはバランスが悪くなっているような気もします。

 忠実な銃士隊長ダルタニアンを演じているのは、『ユージュアル・サスペクツ』のガブリエル・バーン。修道士になったアラミスを演じるのは、『ダイ・ハード3』のジェレミー・アイアンズ。隠居して息子に夢を託すアトスに、『コン・エアー』のジョン・マルコヴィッチ。好色なポルトスには、フランスの名優ジェラール・ドパルデューが扮している。この顔触れに比べると、ディカプリオはいかにもヒヨッコです。役者の格が違う。これは演技力云々とは関係ありません。この映画はフランスが舞台ということで、フランス人の俳優が何人か出演しています。ドパルデュー以外に、アンヌ皇太后役のアンヌ・パリロー、ルイ14世の愛妾となるクリスティーヌ役のジュディット・ゴドレーシュの顔が見える。これによって、この映画はアメリカ映画でありながら、作品の中にヨーロッパの香を注ぎこんでいるのです。これは『ブレイブハート』のソフィー・マルソーと同じです。

 肝心の映画の出来ですが、僕個人の感想としては「まぁこんなものかな」という程度。つい先日、似た時代を背景にしたフランス映画『愛と復讐の騎士』を観たばかりだったので、どうしてもそれに比べると見劣りがしてしまう。『愛と復讐の騎士』がヨーロッパの古城、年代物のアンティークだとすると、『仮面の男』はディズニーランドのシンデレラ城、プラスチック製のイミテーションです。どんなにがんばって本物らしさを出そうとしても、マスプロダクトの工業製品のような薄っぺらな印象が拭えない。ただし、この映画にディズニーランド的な中世趣味を求めている限りにおいて、その期待が裏切られることはないでしょう。『仮面の男』も、それなりによくできた映画なのです。

 ルイ14世とフィリップの出生の秘密は、『ブレイブハート』と同じアイデア。このアイデアは1度なら「王族の血統主義に対する反逆」というテーマに見えるけど、2度やられると逆に「血統主義へのコンプレックス」に見えてしまう。むしろ血縁関係を物語に持ち込まないほうが感動的だと思うけど、どんなもんでしょ。

(原題:THE MAN IN THE IRON MASK)


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