ムーラン

1998/06/26 ブエナビスタ試写室
新作ディズニー・アニメは中国の伝説を原作にしたヒロインもの。
そこそこ楽しめるけど、そのレベル止まり。by K. Hattori


 ディズニーの新作アニメは、千年以上も昔の中国で活躍した男装のヒロイン、ムーランが主人公。病気の父に代わり、男と偽って戦場に出た主人公が、仲間と助け合いながら、中国侵略を企む蛮族を撃退するというお話。将軍の息子とのロマンスをからめるなど、展開はお約束通りですが、前回の『ヘラクレス』にあったような物語の破綻もなく、小ぎれいにまとまった映画になっています。物語にひねりがないような気もしましたが、アメリカ人の観客にとっては「アジアが舞台」というだけで物珍しく見え、それ以上の工夫は必要ないのかもしれません。でも日本人が観ると、ちょっと単調かな。

 例によってミュージカル仕立てになっていますが、今回の音楽担当は、作曲がマシュー・ワイルダー、作詞がデビッド・ジッペル。エンドクレジットでテーマ曲を熱唱するのがスティービー・ワンダー。また、劇中使用されるスコアは大御所ジェリー・ゴールドスミスが担当しています。劇中で使われる曲のいくつかが、意識的に中国音階や中国の楽器を使用したものになっていますが、これがもうひとつはじけないのが残念。いきなりソウル風の曲で始めた『ヘラクレス』のように、中国を意識せずに自由にのびのび曲をつけた方がよかったような気がします。本作でも、中国風でない曲の方が、遥かに物語をダイナミックに引っ張って行く傾向がありますからね。もっとも「中国風」は映画のコンセプトの関わる問題なので、それを無視してしまうのは難しいのかも。

 この映画に出てくる中国に、細かい時代考証が行き渡っているとは思えませんでした。ある程度は調べているのでしょうが、ここに登場するのは、ごく大雑把な「中国のイメージ」です。細かく見ていると、中国風だったり、モンゴル風だったり、日本風だったり、ベトナム風だったりする。ギルバート&サリバンの「ミカド」か、プッチーニの「蝶々夫人」か、はたまた映画『ラスト・エンペラー』かという、風俗の混交状態。映画の中では時間も場所も特定されていないので、こうした状態に目くじら立てても仕方ない。この辺は「アメリカ人は中国をこのように見ておるのだなぁ」と鷹揚に構えているしかない。な〜に、日本人が中国を描いても、中国人から見ればチャンチャラ可笑しい風俗考証をしているに違いないのです。日本人がディズニーを笑えません。

 『リトル・マーメイド』以来快調に見えるディズニー・アニメですが、前回の『ヘラクレス』や本作『ムーラン』からは、「大人も楽しめるクオリティ」が抜け落ちているように思えます。脚本にひねりがないし、物語の背景には現代に通じるような普遍的テーマが見えてこない。ディズニーアニメは『ノートルダムの鐘』のような高級路線と、『ヘラクレス』型のお子様路線に二分化しているのだろうか。アニメの品質としては、CGを使用したカットなどで「おお!」と驚く場面もあるけれど、「モブシーン=CG」という手法が定着してくると、これも手抜きに見えてくるなぁ……。

(原題:MULAN)


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