銭形平次

1998/06/27 国立近代美術館フィルムセンター
長谷川一夫が大映で17本撮った『銭形平次』シリーズの第1弾。
平次の推理ぶりは、本当に名推理か? by K. Hattori


 昭和26年の大映映画。長谷川一夫主演でシリーズ化された『銭形平次』の中の1本です。ところがこの作品、ずいぶん前にどこかで一度観ている映画だということを、最後の最後になって思い出した。平次の女房お静が犯人に捕らえられて、地下室に閉じ込められたまま火をつけられるあたりで「あれ、どこかで観たな」と思い、犯人が船に乗って逃げようとするところへ、平次が投げ銭をバラバラ投げ散らかす部分で「これは絶対に前にも観ている!」と確信した。逆に言うと、それまでまったく思い出さなかったのだから、印象の薄い映画だったということです。監督は後に勝新の『不知火検校』や雷蔵の『薄桜記』を撮る、大映の職人監督・森一生。彼については勝新太郎がこんなことを言っている。「一緒に仕事やってて嬉しいのは森先生ね。そのかわり撮り終わって、試写見て、がっかりするのも森先生」。

 物語は向島で起きた1件殺人事件が発端です。千両箱を抱えたまま、一刀のもとに斬り捨てられていた男の腕には、賽の目の刺青があった。この事件を手始めに、同じような刺青のある男たちが連続して殺される。男たちは数年前に起きた御用金強奪事件の一味らしい。平次は殺された絵師が主催していた、碁仲間のひとりが下手人だとにらむのだが……。平次と女房お静の関係に、絵師の姪と名乗る若い女がからんで、微妙な三角関係が生まれるところがユニーク。長谷川一夫が色男だから、若い女が女房持ちの平次に惚れてしまうという設定も無理がない。ただしこの筋立てそのものには、何の必然性もないのが欠点か。若い女が平次に惚れたことで、物語がどう変化するわけでもない。女房のお静が少し嫉妬したからといって、それが物語にいかほどの影響も与えない。つまり、このエピソードはまったくの無駄なのです。あえて言えば、長谷川一夫あるいは銭形平次が「女にモテモテ」ということを強調する効果がある程度かな。案外、それが一番重要なことだったのかもしれませんが。

 僕はこの作品が長谷川平次シリーズの第1作目だとばかり思っていたのですが、じつはこの前に『銭形平次捕物控/平次八百八町』という映画があるらしい。ただし、これは長谷川一夫が大映入社前の昭和24年製作。新東宝と新演技座の提携作品で、監督は後に『昭和残侠伝』シリーズを撮る佐伯清。今回観た『銭形平次』で、平次親分や八五郎が何の説明もなく登場できるのは、これがシリーズ2作目だったからなんでしょう。ちなみに野村胡堂の「銭形平次捕物控」は戦前にも何度か映画化されていますが、原作者のお気に入りは嵐寛寿郎主演の平次だったとか。これは今、フィルムが残っているのかなぁ。戦後は長谷川平次が一番のあたり役で、後に里見浩太郎や大川橋蔵の映画も作られた。橋蔵の平次はテレビの方が有名だと思いますが、これも最近は再放送をしないから、だんだん「橋蔵=平次」というイメージも薄らいできてしまうのかな。888回も演じたあたり役でも、テレビは放送がなくなるとそれきりだから虚しいよね。


ホームページ
ホームページへ