スプリガン

1998/07/13 東宝第1試写室
長編漫画のアニメ映画化とはいえ、これでは脚本が御粗末すぎ。
ドラマなきアクションシーンは迫力不足。by K. Hattori


 少年サンデーに連載されていた人気漫画のアニメ映画化。総監修が大友克洋。キャラクターデザインと作画監督が江口寿志。監督はこれがデビュー作となる川崎博嗣。単行本で11冊になるという壮大な物語を1時間半にまとめるにしては、脚本の出来がよくなかったように思える。原作の読者はともかく、映画で初めてこの物語に触れる僕のような観客には、ちょっとわかりにくいと思う。もっとも、原作と人物のデザインを変えていることや、劇中で「アーカム」や「スプリガン」の説明を長々としているのは、原作の読者には逆にわずらわしいと思う。結局この映画、原作の読者にもそうでない人にとっても、ちょっと中途半端な出来だと思うけどな……。

 旧約聖書に登場する「ノアの箱船」の物語で、箱船が漂着したと伝えられているトルコのアララト山。超古代文明を調査している組織アーカムは、氷に閉ざされた箱船の遺跡を発見して発掘作業を行っていた。その現場を、アメリカ国防省の送り出した機械化小隊が襲う。アーカムの戦闘工作員(=スプリガン)である主人公・御神苗優は、機械化小隊のファットマンやリトルボーイ、超能力者である少年マクドガルと、アララト山での決戦に挑む。はたして、ノアの箱船の正体とは……?

 プレス資料によれば、この映画はドルビーデジタルとDTSの両方に対応した、本邦初のアニメ作品なのだそうです。ところが東宝の試写室にはどちらの設備もないので、音響は普通のドルビーステレオ。このせいかどうかは知らないけど、音の分離が悪く、レベルも一定せず、台詞がSEにかき消されて聞こえにくかったり、一部の台詞の録音レベルが小さすぎるのではないかと思われる部分があった。はたして日本の映画館の何割が、ドルビーデジタルやDTSに対応しているのだろうか。もし試写室と同じレベルの劇場が多いとすると、この映画の音響効果はちょっと御粗末です。もっとも、この日上映したプリントは完成品ではないそうなので、一般公開の際には音にももう少し手を入れる可能性はあります。

 脚本がこなれていなくて、アーカムとアメリカ国防省がなぜ敵対関係にあるのかよくわからない。対立の図式が不明確では、アクションシーンがぜんぜんはじけません。せめてアーカムの目的だけは、それが世界や人類にどれだけ貢献しているのかを明確にしておくべきです。とりあえず「正義は我にあり」で、それに敵対する奴等は理由がどうあれ「悪党」と割り切ってしまえるように作っておかないとね。そもそも、超古代文明を「封印する」ってどういう意味なんでしょ。壊しちゃうのかね。

 要所に「童夢」や「AKIRA」を連想させる場面があって、さすが総監修・大友克洋はだてじゃない。でも、これは使い古されたイメージという意味でもある。もっとユニークな絵を見せてほしかったぞ。派手な部分はたくさんあるのに、全部が山場ではドラマにならない。もう少し足腰の強い物語を作ってほしかったけどな。


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