気まぐれな狂気

1998/07/15 ソニー・ピクチャーズ試写室
麻薬を盗んだ4人組が、警察とギャング双方から追われて自滅。
俳優キーファー・サザーランドの初監督作品。by K. Hattori


 最近は映画俳優の監督デビュー作が花盛りだが、これはキーファー・サザーランドの監督デビュー作だ。ギャングの倉庫から、麻薬をかすめ取って大金をせしめようとした男女4人組。ところが、押し入った無人のはずの倉庫には、なぜか倉庫番がふたりいた。相手は身内で、悪事はバレバレ。このままただで済むはずがない。緊張感に耐え切れず、押し入ったメンバーのひとりが倉庫番を射殺。薬は奪って逃げ出したものの、倉庫番のひとりが覆面捜査官だったこともあり、あっという間にパトカーに取り囲まれてしまう。銃撃戦とカーチェイスを繰り返しながら、何とか逃げ出した4人組。しかし彼らは、ギャングと警察の双方を敵に回すことになった。

 完璧なはずの犯行計画が、ふとしたきっかけで狂いだし、やがてとり返しのつかない結果を生み出し破滅を招くという設定は、犯罪映画の定番でしょう。タランティーノの『レザボア・ドッグス』もそうだし、古いところではジャン・ギャバン主演の『現金に手を出すな』も同じです。『気まぐれな狂気』では、逃亡する4人組の中に覆面捜査官が混ざっているという点で、『レザボア・ドッグス』に似ているかもしれないし、途中で加わった人質が重大な役目を担うようになる点では『ボディ・カウント/ヤバい奴ら』にも似ている。もっとも、こうした設定は、ギャング映画のひとつのスタイルでしかなく、その映画の中でどんなテーマを描くかは、それぞれの作品ごとに異なります。

 4人組の中身は、ビンセント・ギャロ扮するリーダー格のレイモンドと、その恋人アディ(演じているのはキム・ディケンス)、ミケルティ・ウィリアムソン扮する覆面捜査官のマーカス、それに、監督であるキーファー・サザーランドが演じているカーティス。途中からここに、人質としてゴードンとドナというアベックが加わります。それぞれのキャラクターがじつによく描けていて、小さな行き違いが大きな悲劇を招く様子が無理なく展開します。脚本はブラッド・ミルマン。ギャングの大ボス役でロッド・スタイガーが1シーンだけ登場し、冷酷な殺し屋役でマーティン・シーンが活躍するのも見ものです。拷問シーンは、すごい迫力。

 話の筋は犯罪映画の定番ですが、テーマはむしろ、レイモンドとアディ、ゴードンとドナという2組のカップルに置かれているようです。事件を通してどんどん結びつきを深めて行くレイモンドたちに対し、事件をきっかけに心が離れて行くのを感じるゴードンとドナ。特にレイモンドたちの運命は悲劇的としか言いようがなく、僕はアディの一途な姿に『トゥルー・ロマンス』のアラバマと同じものを感じてしまった。ギャロの風貌は、ちょっとウィレム・デフォーに似てるかもね。

 キーファー・サザーランドの演出ぶりはなかなか堂に入ったもの。彼はテレビ作品の演出経験が1度けあるそうです。次回作の予定もあるようなので、今後は俳優としてより、監督として注目すべき人かもしれません。

(原題:Truth or Consequences, N.M.)


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