エベレスト

1998/07/15 東京アイマックスシアター
世界最高峰エベレストにアイマックスカメラが挑む。
2D作品ながら見応え十分です。by K. Hattori


 アイマックスの自慢は、そのでっかいスクリーン。でっかいスクリーンでは何を観るのがいいかと言えば、それはでっかい物を観るのが一番適しているに決まっている。ミクロの世界を描いた『オープン・ユア・アイズ/エリーの不思議な世界』が悪いわけではありませんが、僕としては、巨大な宇宙ロケットや星空にポッカリと浮かぶ地球の姿を大スクリーンに映し出した『宇宙ステーション・ミール』の方が感動した。これぞ大画面ならではの迫力だろうと思う。

 今回観た『エベレスト』は、地球上でもっともでっかい山、エベレストをテーマにした作品。アイマックスのカメラをエベレストの頂上にまで持って行った撮影隊が、長年の訓練を経たベテラン登山家しか見ることの出来ない風景を、映画館の観客に見せてくれます。『ミール』でもそうですが、「普通の人は滅多に行けない場所にカメラを持ち込み、映像による疑似体験をさせる」という趣向は、リュミエール以来綿々と続けられている映画興行の原点です。今は海外旅行ぐらいなら誰でも簡単に行けるから、外国の珍しい風景を観ても、それだけでは簡単に驚かない。その点、宇宙やエベレストの頂上は、本当に限られた一部の人たちしか行けない場所ですから、映像で疑似体験すること自体に意味が出てくるのです。

 この映画が撮影されていたのは1996年5月、撮影隊の目の前で、別の登山グループ、ロブ・ホール隊とスコット・フィッシャー隊の遭難事故が起こっています。ベテラン登山家のホールは、薄れ行く意識の中で妊娠中の妻と衛星電話で最後の会話を交わします。同じ隊にいた日本人登山家・難波康子も、そのまま帰らぬ人となった。この時の事故では、計8人が犠牲になったそうです。アイマックスの撮影隊は、遭難現場から目と鼻の先にいたのですが、吹きすさぶ吹雪の中でどうすることも出来ませんでした。映画はこの時のキャンプの様子も記録されています。通信機から聞こえてくるロブ・ホールの小さな声が、やがて吹雪に飲み込まれてしまう悲劇。どんなに経験を積んだ登山家でも、天候の急変などによって、いとも簡単に命を落としてしまうのが、エベレストという山なのです。この事故は映画の演出ではありませんが、この悲しいエピソードが挿入されていることで、エベレスト登頂に撮影カメラを持っていくことが、いかに困難なことであるかがよくわかります。

 僕としては、エベレスト頂上からぐるり360度の美しいパノラマ風景を期待していたのですが、この映画はむしろ、困難な訓練の様子やキャンプ設置など、地味な作業を丹念に追って行きます。これは「エベレスト」の映画ではなくて、「エベレストに挑む人間たち」を主役にした映画なのです。彼らにとって、山は苛酷で厳しい場所です。映画からもそれが伝わってきて、とても「美しい」という感慨に浸っている暇がありません。この映画を観た後は、テレビや新聞で「エベレスト登頂成功」のニュースを見る目が確実に変わることでしょう。

(原題:Everest)


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