ニルヴァーナ

1998/07/21 メディアボックス試写室
この映画が僕の考える「サーバーパンク」に一番近いかも。
安っぽいセンチメンタリズムもいい。by K. Hattori


 前にも1度観た映画ですが、その時は途中でだいぶ眠ってしまったため再見。前回話がつながらなかったところも理解できたし、僕としては大満足。ただし、映画のできには不満もある。現在進行形の事件と、そこに至るまでの出来事をカットバックで同時進行させる手法は珍しくないのだが、この映画はそれがどうもわかりにくい。そもそもこの物語に、カットバックの必要があるんだろうか。必要ないのにわざわざカットバックでシーンを刻んだのだとしたら、物語からスピード感を奪うだけだと思う。監督は舞台演出家出身なので「カットバックこそ映画独自の表現」と思っているのかもしれないが、ここは映画独自の表現をビジュアル面に譲って、物語自体は頭からおしりまで、ストレートに描いていった方がよかったように思える。これは、この映画のカットバックにちょっとした「仕掛け」があることを差し引いてもだ。

 次に不満なのは、ゲームデザイナーである主人公が、命を懸けてまで自分の作品を破棄しようとする必然性が、どうも希薄に思える点だ。これはゲームのキャラクター「ソロ」が、太った中年男だというだけで同情心をそがれる。ソロ役のディエゴ・アバタントゥオーノは名優だそうですし、監督の映画にもレギュラー出演している役者だから、監督には必然性のあるものかもしれない。でも僕には、主人公がソロに同情する理由がわからない。むしろゲームキャラクターを女性にして、主人公がそこにかつての恋人リザの面影を投影しているという設定にするとか、工夫の余地はまだあったと思う。少なくとも、その方が僕には納得しやすい。(好みの問題か?)

 この2点を除けば、この映画はかなりしっかりしたサイバー・パンクSF映画として観応えがある。主人公ジミーを助けるふたりのハッカー、ジョイスティックとナイマのキャラクターが出色。リザの記憶を移植したナイマがジミーに抱かれるシーンは切ないし、後半のハッキング場面で、ナイマがリザとしてジミーに語り掛ける場面は最高に面白い。また、ジョイスティックの強烈な個性が、この映画の「サイバー・パンク気分」を半分以上受け持っている点も見逃せない。オコサマ・スター社から派遣されている日本人殺し屋も、いい味出してるよね。

 クライマックスは終盤のハッキングシーン。侵入するハッカーは「エンジェル」と呼ばれ、それを撃退するプログラムは「デビル」と呼ばれているのだが、一連のハッキングプロセスを、基本的にはセットと芝居だけで見せるのはアイデア賞。ここはサイバー空間内の視点と、ホテルの部屋のカットバックがじつに効果的です。デビルのひとつが、ジミーの元恋人リザの姿で現れるくだりは、観ていて鳥肌が立つぐらいスリリング。このハッキングシーンだけで、この映画はSF映画史に残るよ。

 デジタル技術を使った画像処理や、CGもふんだんに使われています。一番驚いたのは、リザの記憶を記録したチップが、ナイマの額に吸い込まれて行くところかな。このさりげなさに、作り手のセンスを感じます。

(原題:NIRVANA)


ホームページ
ホームページへ