かわいいひと

1998/07/27 メディアボックス試写室
ポッキーのCMから生まれた3話オムニバスの恋愛映画。
吉川ひなのの魅力だけが印象に残る。by K. Hattori


 企画・製作は江崎グリコ株式会社。ポッキーのCMから生まれた、3話オムニバスの青春ラブストーリーだ。総監督は相米慎二。脚本は榎祐平。各エピソードは、村本大志、冨樫森、前田哲がそれぞれ監督している。ポッキーのCMから生まれた映画というと、4年前にやはり江崎グリコ製作で作られた『四姉妹物語』という映画があった。どちらも特別面白い映画ではないけれど、こうして企業が丸抱えで映画にお金を出してくれるというのは、日本映画界にとってはいいことだと思う。

 3つのエピソードは、同じ町や自転車屋を舞台にして、3組のカップルの姿を描いている。最初のエピソードは、奥菜恵と安藤政信が主演するラブストーリーで、全エピソード中ではもっとも退屈。電話ボックスの安藤に奥菜が突然抱きつくという出だしは悪くないのだけれど、こうしたエキセントリックな少女を出すときは、私生活をベタベタ描写することがマイナスになる。脚本に私生活が描かれているのなら、監督はもっと別の演技を奥菜恵に要求すべきだと思うのだが、彼女の笑顔を強調したいばかりにチグハグな印象になってしまった。最後に公園でふたりがメソメソ泣くのもよくわからない。それに、「運命だから一緒にいなきゃ!」と断言する女の子が、僕はちょっと不気味に感じられたぞ。これじゃ安藤政信は、ひとりでどこにも出かけられない。彼は結局、ベトナムに行かなかったんだろうな……。

 2番目のエピソードは、旅行会社に勤める椎名桔平のもとに、小鳥を持った少女、中村綾乃が飛び込んでくるという話。この話でも少女の行動はかなりエキセントリックなんだけど、彼女の私生活がまったくわからないことで、少女の突拍子のない行動が許せるようになっている。でもこのエピソードで面白いのは、中村綾乃より椎名桔平の二枚目半ぶり。イタリア留学中の婚約者がいて、オープンカフェのウェイトレスにモーションかけられてもぜんぜん気づかないという鈍感ぶりがよろしい。ウェイトレスに水をかけられちゃう場面は面白かった。また、彼の上司役の大杉漣が、いい味出してます。

 最後のエピソードは、吉川ひなのと鳥羽潤の『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』カップルが、再びスクリーンで共演する物語。お話としては、これが一番ひねりがあって面白かった。未来を予知する夢を見ることができるようになった少女が、自分のボーイフレンドが交通事故に遭うことを予知してしまったのだが、それが彼に伝えられなくて……、というお話。これはお話そのものより、スクリーンに映る吉川ひなのの表情を観ているだけでも楽しい。彼女は『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』でスクリーン・デビュー後、『デボラがライバル』『TOKYO EYES』など何本かの映画に出ている。今回主役級で出演した女性タレントの中では、一番スクリーン慣れしているんだよね。カメラの前で女優は磨かれる。吉川ひなのは、今回登場したヒロインたちの中で、一番輝いてました。演出の拙さを、タレントの魅力が補ってます。


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