微笑みをもう一度

1998/07/30 20世紀フォックス試写室
サンドラ・ブロックが子持ち主婦を演じたヒューマン・ドラマ。
監督はフォレスト・ウィティカー。by K. Hattori


 今年の10月下旬に公開するはずが、どういうわけか来年春の公開に延期されてしまった映画。サンドラ・ブロック扮する専業主婦バーディは、テレビの公開番組で夫の不倫を知る。子供を連れて実家に戻った主人公は、小さな町で好奇の目にさらされ大いに落ち込むが、やがて本来の快活さを取り戻し、新しい生活を始め、新しい恋に出会い、新しい家庭を作り上げて行く。主人公の元同級生だった男ジャスティンを演じているのは、最近すっかり俳優業に精出しているハリー・コニック・ジュニア。母親ラモーナを演じているのはジーナ・ローランズ。娘バニースを演じるのは『インデペンデンス・デイ』『素晴らしき日』のメイ・ホイットマン。主人公の親友と浮気した夫ビルを演じているのは、B級アクション映画のスター俳優マイケル・パレ。浮気相手コニー役として、ロザンナ・アークエットが特別出演している。

 監督は『ため息つかせて』で監督業にも進出したフォレスト・ウィティカー。前回の作品は「黒人の人気俳優が、黒人女性を主人公にした恋愛映画で監督デビュー」という位置付けで観られることが多かったようですが、今回は映画の中にほとんど(まったく)黒人が登場しない、ごく普通のハリウッド映画。この作品でウィティカー監督の真価が試されたはずですが、まずまず水準以上の仕上がりになっていると思いました。

 欲張りなことを言えば、各登場人物にあと一歩ずつ踏み込みが足りないとも思います。テレビの公開番組で初めて夫と親友の裏切りを知った主人公の表情や、実家に帰っても周りが怖くて一歩も部屋から出られない様子、職安で昔の同級生に出会って意地悪される場面などで、もっと主人公をいじめ抜いたほうが良かった。ジャスティンの過去の挫折も、もっと輪郭を明確に描いたほうがすっきりする。両親の不和に心を痛める娘の表情も、もっとたっぷりと描いてほしかった。とにかく全編「もっとこうしたらいいのに」と思うことばかり。この映画は主人公が大きな挫折を経験して人生最悪の時を迎えたところから物語が始まり、彼女がそこから少しずつ浮かび上がってくる様子を丁寧に描くところがミソです。最初は濃いエスプレッソコーヒーをブラックで飲むような強烈なエピソードを連打し、最後はミルクと砂糖たっぷりのコーヒー牛乳のような味わいで終わればよかったのです。でもこの映画は、最初から最後までコーヒー牛乳の味しかしない。残酷なシーンを薄め、感動的なシーンも薄め、全体がやけにのっぺりと平坦なのです。

 全体にマイルドな描写が多いため、主人公の内面的な成長が目に見えにくい。彼女の行動のひとつひとつは表面的に描かれるだけで、その行動をつなぎ合わせる心理描写の部分がおざなりです。だから例えば、彼女が夜中にトイレで泣き崩れる場面も、エピソードとして必要なのはわかるのですが、なぜこのエピソードがこの位置にあるのかがよくわからない。ウィティカー監督は基礎体力はある人のようなので、更なる精進を期待してます。

(原題:HOPE FLOATS)


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