ピガール

1998/08/03 TCC試写室
パリ下町の歓楽街ピガール地区で長期ロケしたドラマ。
描写のディテールがすごく面白い。by K. Hattori


 パリ下町の歓楽街ピガール地区を舞台に、ヤクザやヌードダンサーやゲイやカッパライやヒモなど、町に暮らす雑多な人々が織り成すスリリングなドラマ。ピガールの様子は、新宿歌舞伎町に近いのかな。クラブやキャバレー、ナイトクラブ、ポルノショップなどが立ち並ぶ、パリでももっとも猥雑な地域です。この映画はカリム・ドリディ監督の長編デビュー作で、製作されたのは4年前の1994年。昨年製作された最新作『ルール違反』は、今年のフランス映画祭横浜で観ましたが、正直言ってあまり面白いとは思えなかった。資料を見て同じ監督の作品だと知り、まったく期待せずに観た『ピガール』ですが、案に相違してじつに面白い映画でした。この監督の2作目は、カンヌ映画祭の「ある視点」部門で最優秀作品賞を撮った『バイバイ』という映画。これも間もなく日本で公開される予定だとか。楽しみです。

 この映画の主人公は、ゲイのちんぴらフィフィと、ヌードダンサーのヴェラ。フィフィはドラッグクイーンのディヴェンヌに養われてヒモのような暮らしをし、ヴェラはヒモのイエス(ジプシーとも呼ばれている)と暮らしている。ひっそりと自分たちの生活を守っていたふたりだが、やがてピガールの中で行われているヤクザ同士の勢力抗争の中に、否応無しに巻き込まれて行く。町の雰囲気もあいまって、これはまるでフランス版『不夜城』か『犬、走る/DOG RACE』ではないか。

 映画はほとんどがピガール地区で撮影され、地区で暮らす人々も多数登場している。この映画は完全なフィクションですが、撮影は実際の町の中に俳優たちを配置し、ドキュメンタリーを撮るような手法で行われているのです。ヴェラ役のヴェラ・ブリオルは、一般客もいる覗き部屋でヌードダンサーを演じきり、常連客たちからも大好評だったとか。屋外風景をロケ撮影することは映画ではよくありますが、この映画は監督以下のスタッフとキャストがピガール地区に3ヶ月暮らし、ピガールの空気を呼吸し、雑踏のざわめきを聞きながら撮影したものです。観光客が絶対に踏み込めない薄暗い路地裏や、怪しげな人物たちがたむろする室内にもカメラがどんどん入って行く。これはなかなか迫力がありました。

 物語は一応あるのですが、それよりエピソードを彩るディテールに目を奪われて、ちっとも退屈しない。弟分のアラブ系少年にフィフィが「アラブ野郎」と悪態をつくと、近くを歩いていたアラブ系の人たちが「おいおい、お前は失礼なやつだ。この子に謝れ」とゾロゾロでてくる場面などは、現在のパリがいかに多民族都市になっているかがよくわかる場面です。キャバレーの経営をしている中年のゲイが、ダンサーたちに何度もダメだししているシーンも面白かった。場末の小さなステージとはいえ、彼らにとってそこはプロとしての仕事を見せる神聖な場所なんでしょうね。このシーンがあるから、彼がフィフィと生活するためなら店を売ってもいいと言う場面が生きてくる。雑多な印象がありますが、いい脚本です。

(原題:Pigalle)


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